韓国軍は“性転換”兵士をなぜクビにしたのか 本人は女性兵士として再入隊を希望
海外の反応を逐一伝えた韓国メディア
韓国軍がピョン元下士を除隊としたのは、性別の変更そのものが理由ではない。軍は手術の報告を受けてピョン元下士を検査し、ペニスと睾丸の喪失を除隊理由となる“心身障害”と判定。審査委員会での判断を経て、除隊の決定を下した。「故意に心身障害をもたらした」ことも、厳しく審査されたようだ。
審査に先立って民間団体の韓国軍人権センターは、「性的自己決定権の侵害」として、人権問題を扱う国家機関・国家人権委員会に緊急救済を申請。同委員会は陸軍参謀総長に意思決定を3カ月延ばすよう勧告したが、聞き入れられなかった。
韓国ではこうした韓国軍の姿勢を、複数のメディアが批判的に報道。また多くのメディアが、海外での報道を詳しく紹介している。
欧米の主要メディアは性に保守的な韓国で初めてトランスジェンダーの兵士が登場したこと、そして軍隊から追い出されたことに関心を寄せた。例えばBBCは韓国で性的少数者が置かれた状況について、こう説明している。「韓国でLGBTはしばしば障害か精神疾患、また保守的かつ有力な教会によって罪だと見なされ、差別を禁じる法律もない」(2020年1月22日付)。またニューヨーク・タイムズも「(ピョン元下士の事例は)韓国の保守的な社会、とりわけ軍隊において、同性愛者やトランスジェンダーが直面する不寛容な扱いを照らし出した」「支援の高まりにもかかわらず、韓国社会はLGBTに対して偏見を抱いている」(同)と伝えた。韓国メディアはこうした記事を繰り返し引用し、読者の問題意識にアピールしている。
同性間の性行為を裁く韓国軍
BBCによるとイギリスほか多くの西ヨーロッパ諸国、オーストラリア、カナダ、ニュージーランド、イスラエル、ボリビアなどで、トランスジェンダーの兵士が公に軍務に就くことができるという。アメリカではオバマ政権下で同様の措置が図られたが、トランプ政権は例によってこれを覆した。
一方、韓国軍はかねてから同性愛に対して差別的だとの批判が根強い。特に悪名高いのは、軍の刑法にある“醜行罪”。これは同性間の性行為を犯罪として処罰する規定だ。憲法違反だとして過去にたびたび提訴されたが、憲法裁判所はそのつど合憲の判断を下した。2017年4月には陸軍参謀総長によって同性間の性交渉が疑われる兵士の洗い出しが行われ、40~50人の兵士が特定されたという。
その一方で軍の内部には、ピョン元下士の決断を支持する者も少なくないと伝えられている。ピョン元下士は会見で「(所属部隊にカミングアウトして手術の意思を伝えると)軍服務不適合審議が行われる可能性もありましたが、私の決定を支持して応援してくれました」と語り、部隊長や僚友らに感謝の言葉を述べた。部隊は手術を受けるための海外渡航を公式に許可し、手術後の服務についても前向きに話し合ったとのことだ。
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