子供を育てられない母親の最も悲惨なケース「妊娠依存症」という闇
2018年度の児童相談所への児童虐待の相談件数は15万9850件。前年より2万6072件増えて過去最多を更新した。なぜ児童虐待や育児困難が増え続けるのか。ノンフィクション作家の石井光太氏は、『育てられない母親たち』(祥伝社新書)を2月に出版、24の事例を挙げて多面的に分析した。その中で取り上げられている、あまり馴染みのない「妊娠依存症」の母親について語ってもらった。
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凄惨な児童虐待のニュースが流れるたび、虐待死させた親に批判が集中する。しかし、虐待や育児困難が起こる原因は、決して単純なものではなく、複合的な問題をはらんでいるという。
石井氏が挙げた24事例の中の一つが、妊娠依存症である。
「妊娠依存症というのは、正式な疾患名ではありません。特別養子を支援するNPO法人『Babyぽけっと』のスタッフから聞いた言葉です」
と解説するのは、石井氏。
「特別養子は、普通養子とは異なり、実親の戸籍から抜け、養親の戸籍に入ることができる制度です。様々な事情から実親が子育てはできないと考えた時、この制度を利用して子供を養親に引き渡すことがあります。『Babyぽけっと』は、風俗勤務、不倫、未婚、病気などの事情で子育てができない親から子供を引き取り、養親に橋渡しをしています」
本書では、『Babyぽけっと』のスタッフの一人、奥田幸代氏が妊娠依存症について以下のように説明している。
〈「妊娠中や出産の後って、脳内でいろんなホルモンが分泌されて幸せな気持ちになるんです。人によってはそれがたくさん分泌されて、幸福感に浸れます。
さらに、妊娠中や出産直後は、周りの人たちから大事にされますよね。(中略)実は、そういうホルモンが及ぼす幸福感や、優しくされる環境に喜びを見出して、育てるつもりもないのに、何度も妊娠する人がいるのです。本人がどこまで意図しているかわからないけど、たとえば未婚のまま四人の子供を産んで四人とも特別養子に出すとか。そういう人のことを、私たちの間では『妊娠依存症』と呼んでいるんです」〉
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