M-1で3位「ぺこぱ」の下剋上が始まる “優しいツッコミ”に松本人志も「いいねぇ!」
絶対に怒らないツッコミ
この2人が出遭ったのは、アルバイト先の居酒屋だった。2007年頃のことだったという。既に松陰寺はミュージシャンの夢を諦め、ピン芸人として活動していた。
松陰寺がシュウペイに出遭って気に入り、半年間も口説き続けてコンビ結成に漕ぎ着けた。最初はナイスデイという事務所に入ったが、2010年にオスカープロモーションへの移籍を果たす。ところが19年に同社はバラエティ部門の閉鎖を決め、契約を解除されてしまう。
するとAbemaTVでカンニング竹山(48)の番組に出演したことが縁となり、サンミュージックの所属が決まった。そして現在に至るというわけだ。
下積み時代はボケやツッコミを入れ替えたり、“ボーイズラブ漫才”や“ヒップホップ漫才”に挑戦したりするなど、試行錯誤と苦労の連続だったようだ。とてもではないが“順風満帆”という言葉とは無縁の芸人生活だった。
「2015年にNHKのBSが放送した『爆笑ファクトリーハウス 笑けずり』で一部の注目を集め、翌年に初の単独ライブを下北沢で開催しました。18年のM-1グランプリ予選では準々決勝まで勝ち残り、19年1月1日の『ぐるナイ おもしろ荘 日本で一番早いネタ祭!誰か売れて頂戴!』で優勝します。オスカーとの契約を解除されるというトラブルを乗り越え、19年にとうとうM-1グランプリ決勝に初出場。3位に食い込んで注目を集めましたが、彼らの特徴は松陰寺が放つ“優しいツッコミ”です」(同・制作スタッフ)
実際にM-1グランプリの決勝戦で披露した「タクシー運転手」のネタを振り返ってみよう。
ステージに登場すると、自己紹介などを1分間で終わらせ、シュウペイが「突然なんだけどさ、タクシー運転手なんてやってみたいと思って」と口火を切り、すぐにネタへ入る。鮮やかな進行が印象的だ。
運転手役のシュウペイは「ぶーん」と松陰寺に向かって車を走らせるマネをする。松陰寺は「ヘイ、タクシー!」と左手を挙げる。
だがシュウペイは止まらず、「どーん」と松陰寺に衝突する。普通のツッコミなら、この衝突を非難するだろう。「痛いわ!」とか「何をぶつかってんねん」とか、「俺、死ぬじゃねーかよ」という具合だ。
ところが松陰寺は「痛ってえな、どこ見て運転してんだよ……って言えている時点で無事でよかった。無事であることが何より大切なんだ」となぜか納得してしまう。
松陰寺が決まり文句である「時を戻そう」を口にすると、再びシュウペイはタクシーの運転を始める。だが、やはり「どーん」とぶつかってしまう。
すると松陰寺は「2回もぶつかるということは、俺が車道側に立っていたのかもしれない。もう誰かのせいにするのはやめにしよう」と、今度は反省してしまうのだ。
その後もボケに“優しいツッコミ”を返しながら、松陰寺はシュウペイのタクシーに乗る。そしてシュウペイに「うるせえ、キャラ芸人!」と理不尽な罵声を浴びせられると、「キャラ芸人になるしかなかったんだ。何かが欲しかった」と弁解する。決して怒らないのだ。
今でもオチに「いい加減にしろ」と定番のフレーズを使う漫才師は少なくないが、松陰寺は「いい加減なことなんかない」と、あくまでも肯定的に締めるという徹底ぶりだ。
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