「大腸がん」死亡率8倍でアメリカ超え… 京丹後市民の腸内環境に解決のヒントあり?
大腸がんでの死亡率は半世紀前に比べて8倍に激増し、あのアメリカを圧倒するという。死活問題となった便秘解消の「腸活」は、全国民を魅了する京丹後市民の腸内宇宙とは――。
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「あらゆる臓器や血液などを含め細かく分類すると、がんは250種類にものぼり、1年に約90万人ががんを発症しています。そのうち、大腸がんと診断される人は約16%で男女合わせて14万人。すべてのがんの中で、大腸がんがトップを占めているのです」
と解説してくれるのは、帝京平成大の松井輝明教授。『日本人の大腸は「劣化」している! 大腸活のすすめ~腸は自分で変えられる~』の著者でもある。
「そして、大腸がんで亡くなる方は年間約5万人。男性は1位肺がん、2位胃がんに続く第3位。女性は大腸がんが第1位です。およそ半世紀の間に大腸がんでの死亡率はがん全体の中で上昇しており、男性は8倍、女性は6倍にもなっています。悪玉菌が増えて腸内の環境が悪化すると、免疫力が低くなり、毒素もたまっていく。こういった『腸内劣化』によって、大腸がんになりやすくなるわけです」
これまでに4万件以上の大腸内視鏡検査を行った腸のスペシャリストで、松生(まついけ)クリニックの松生恒夫院長が後を受け、
「直近、大腸がんで亡くなった人は日本とアメリカでほぼ同じくらいの人数です。日本の人口はアメリカの4割なので、大腸がんでの死亡率はアメリカよりもはるかに高い。1960年代、大腸がんを患う日本人はほとんどいませんでしたが、90年代に入ったところで増えてきました。一方で、胃潰瘍や胃がんは減ってきた。病気の質がこのように60年間で変化してきたんです。はっきりとした原因はわかっていないのですが、一つには食生活、食文化が変化したことが挙げられます」
臨床を通じて感じた原因の一つは、過剰な糖質制限だ。
「炭水化物は、糖質プラス食物繊維。炭水化物を制限すると、糖質のみならず食物繊維を摂らないということになる。そうなると、腸に負担がかかります。それに、炭水化物を制限する時に肉をたくさん食べることも奨励されますよね。アメリカの対がん協会というがん専門の協会は、肉を食べる量を1日80グラムまでにすることを推奨しています。肉の中でも特に赤身肉が大腸がんのリスクをあげるという報告があります」(同)
先の松井教授も同様に、
「1950年には1日当たりの食物繊維摂取量は男性で20グラム、女性で18グラムだったのが、今では共に14グラム程度にとどまる。その一方で、50年時点の便量が400グラムに対して、今は200グラムへと減少しています。日本人の大腸が劣化しているのは間違いなく、その原因の一つに、食物繊維の摂取量が減少していることが挙げられる。正常な便の70%は水分、10%は細菌の死骸、10%が食物残渣(ざんさ)、そして10%が大腸の細胞が剥がれ落ちたものだと言われています。昔の人の便量がより多いということは、細菌数も種類も多かったと推察されます」
と指摘するのだ。
“脳内がお花畑”とは考えの浅さを指してあまり言われたくない文言の一つだが、腸内はお花畑(フローラ)であるに越したことはない。そこに棲みついた100兆個もの細菌が作るフローラのバランスが腸内環境、ひいては当人の生殺与奪の権を握っていると言っても過言ではないからだ。カフェインの摂取が腸内フローラの環境改善に寄与するという米ベイラー医科大の研究結果もある。昨年12月、吸引してカフェインを摂取するデバイス「ston」をJTの関連会社が発売したが、その利用も奏効するのか。もっとも、
「腸内環境=腸内フローラだと思っている人がいますが、それは嘘です。腸内細菌だけ良くしても、腸の病気は減りません。食べ物を見直したり、腸の動きを良くしたりすることも大きな要素です。腸内環境と寿命の関係について、面白いデータがあります。それは米ミネソタ州に住む1988~93年の間に20歳以上だった3993人を2008年までの15年間に亘って追跡したもの。その調査において、“慢性的な便秘がある”と答えた人の方が“慢性的な便秘がない”と答えた人と比べ、生存率が低いことがわかったのです。この点からも、腸内の環境を良くした方が健康に資するだろうと思います」(松生院長)
便秘は命にかかわる諸悪の根源で、大腸がんの原因にもなる。便秘になりにくいような食べ物とは、水溶性の食物繊維が多く含まれている海藻類や大麦やキウイフルーツ。更には納豆などの発酵食。腸のすべりを良くするオリーブオイルなど。生野菜、サラダといった不溶性の食物繊維ばかりだと便が硬くなってしまうので要注意だ。
「また、京都府立医科大での研究によると、100歳以上の高齢者が多く住んでいる京丹後市の人は野菜、海藻、芋の煮ころがしなど食物繊維の含有量が高く、品数が豊富な食事をしていると報告されています。彼らの腸内環境には、いわゆる長寿菌である酪酸産生菌が多いと見てよいでしょう」(前出・松井教授)
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