「広島カープ」強さを取り戻せるか、“暗黒期”に逆戻りか…2020年は“大きな分岐点”だ

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 セ・リーグ三連覇から一転、昨年は4年ぶりのBクラスとなる4位に終わった広島カープ。2年連続MVPの丸佳浩がライバルの巨人に移籍し、リードオフマンの田中広輔も故障で長期離脱するなど、チームの看板だった“タナ・キク・マル”が崩壊したことが一つの時代の終わりを感じさせた。また中軸を担っていたバティスタの禁止薬物使用による出場停止処分も大きな誤算だったと言えるだろう。果たしてそんな悪循環から抜け出すことができるのか。新生カープの今シーズンを占ってみたい。

 まずこのオフの動きだが、最も大きかったのは菊池涼介の残留ではないだろうか。メジャー・リーグへの移籍を目指してポスティングシステムの手続きを申請したものの、好条件でのオファーが得られず、昨年末に4年契約を結んだ。打撃は好不調の波が大きく、守備も昨年はレギュラーを獲得して以来最低となる387補殺という数字に終わったものの、菊池がいるといないとでは内野の安定感が大きく違うことは間違いない。本人にとっては残念な結果だったかもしれないが、首脳陣は胸をなでおろしていることだろう。さらに国内FA権を獲得した会沢翼、野村祐輔も複数年契約を結んで残留。かつての主力が相次いでFAで流出していた時代とは確実に変化が感じられる。

 一方の補強面だが、最大のプラス要因はドラフト1位で獲得した森下暢仁になるだろう。昨年春のリーグ戦とその後に行われた全日本大学野球選手権では圧巻のピッチングを見せて、チームを日本一に導いた大学ナンバーワン投手だ。秋の個人成績は2勝3敗でチームも5位に沈んだが、防御率1.00と見事な安定感を見せている。ストレートはコンスタントに150キロを超え、最近では投げる投手が少ない大きなカーブで緩急をつけることもできる。故障がなければ開幕からローテーションに入り、二桁勝利も期待できるだろう。

 先発ローテーションは、森下に大きな期待をかけなくてもある程度コマが揃っている印象だ。大瀬良大地、ジョンソン、野村祐輔の実績のある三本柱に昨年成長を見せた九里亜蓮、床田寛樹が続き、アドゥワ誠、山口翔、遠藤淳志の若手三人も成長を見せている。ジョンソンの年齢的な衰えがあったとしても、ある程度カバーできる布陣と言えるだろう。不安なのはリリーフ陣だ。リーグ三連覇を抑えとして支えた中崎翔太が昨年大きく成績を落とし、昨年前半フル回転したレグナルトは戦力外となって退団した。一岡竜司、今村猛、中田廉なども勤続疲労で数年前の勢いが感じられない。岡田明丈を先発からリリーフに転向させると言われているが、制球力に課題があるだけに大きな期待はかけづらい。ブルペンの整備をどうするかが、佐々岡真司新監督の最初の大きな仕事になりそうだ。

 野手陣は昨年、西川龍馬、菊池、バティスタ、鈴木誠也、松山竜平という並びが固定されていた時は安定した結果が続いていた。しかし、バティスタは禁止薬物使用の影響により契約の継続が不透明な状況で、松山も今年で35歳という年齢を考えると大きな上積みは考えづらい。主砲の鈴木誠也が安定しているのは大きな救いだが、東京五輪でも主力として期待されているだけにその影響も心配される。他にもここ数年固定できていないサードと田中が故障から復帰途上のショートも不安材料だ。高校卒ルーキーながら田中の代役を任せられた小園海斗、昨年途中トレードで加入した三好匠、二軍では抜群の実績を誇るメヒアなど、今後の成長が楽しみな選手がいるが、昨シーズン後半のように日替わりでレギュラーを固定できない試合が続くようだと、攻守両面で安定した成績を残すことは難しいだろう。

 そうは言っても繰り返しになるが、菊池、会沢、野村などの主力が残留し、大きな戦力ダウンがなかったことは救いである。他のセ・リーグ5球団を見ても大幅に戦力アップしているチームは見当たらず、Aクラス入りする可能性は高い。だが、少し先のことを考えると鈴木のメジャー移籍は現実的な問題として大きく降りかかってくることは間違いない。鈴木がいる間に早くもう一度優勝することができなければ、ズルズルと暗黒時代に逆戻りすることも大いに考えられるだろう。強い広島の時代が続くのか、再び低迷期に入るのか。今年は大きな分岐点と言えるシーズンとなるだろう。

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年1月31日掲載

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