東京五輪にボランティアは来る? “有償”バイトとの格差、ボイコット予備軍は
東京五輪に四つの破綻危機――小林信也(2/3)
間もなく迎える東京五輪の開幕を前に、残された“四つの難題”をスポーツライターの小林信也氏が解説する。前回紹介した会場の環境の問題もさることながら、運営側にも課題は残るようで……。(以下は「週刊新潮」2020年1月16日号掲載時点の情報です)
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次に気になるのは「ボランティアの確保」だ。パソナ(東京五輪の「人材サービス・カテゴリー」のオフィシャル・サポーター)が、「時給1600円以上で東京五輪のアルバイトを募集している」と報じられた。もし事実なら、「1日の交通費千円」だけのボランティアとの格差が問題とされたのだ。
もし多数のボランティアが当日になって突然来なかったら大会は運営できるのか? 角川新書『ブラックボランティア』の中で、著者の本間龍氏は次のように書いている。
〈ボランティア募集は、実は非常に大きなアキレス腱にもなりうる。平昌オリンピックでは2万人のボランティアのうち、待遇に不満を募らせて2千人以上がボイコットしたという〉
猛暑が予想される東京五輪では、もっと深刻な事態が起こりはしないか。組織委を訪ねると、スポークスパースンの高谷正哲(まさのり)氏が答えてくれた。
「パソナさんの募集は、元々予定していたものです。ボランティアとペイドスタッフは役割が違います。ペイドスタッフには職員として働いていただきます。短い人で1カ月、長期のスタッフは8カ月の予定です。組織委は立ち上げ時44人で始まり、いまは3千人を超え、大会期間中は8千人になる予定。これに約8万人のボランティアで運営する体制です」
巨大ビジネス化した五輪がボランティアに依存する仕組みに矛盾はないのか?
「営利ビジネスと安易に言われるのは違います。オリンピックは、スポーツを通じた平和運動であり、心身のバランスの取れた健全な人間づくりへの貢献が目的です。オリンピックを支えるマーケティングシステムが時間の流れの中で変わっているのは確かですが、『儲かっているからボランティアにも報酬を払うべきだ』という意見は、オリンピックを理解されていない断片的な視点だと感じます」
今夏に向けたボランティア募集には20万4680人の応募があったと組織委のホームページに記されている。男女比は男性36%、女性64%。国籍は日本国籍64%、日本国籍以外36%。この中から条件に適合すると認められた約8万人が順次研修を受けて本番に臨む。
昨年10月4日に東京都内で開かれた研修の最初に、「東京五輪パートナー企業以外のウエアや持ち物を着用しないように」という指導が徹底されたと報じられた。ユニフォームは提供されるから、五輪期間中に他社のマーク入りウエアで活動する状況はおきないだろうが、他社のドリンクを飲んでSNSに投稿するのは問題だといった指導がなされた。軽いジョークのニュアンスもあったにせよ、無償協力してくれるボランティア研修で真っ先に「協賛企業への配慮」を求めるセンスはさすがに無礼ではないかと感じられた。
選ばれた約8万人の中に、当日ボイコットしそうな予備軍はいないのか。
「無償の参加に価値を見出す方がたくさんいます。オリンピックは世の中にふたつとない価値をもたらしている。その価値に共感して、研修にもみなさん熱心に取り組んでくださっています」(同)
8万人全員が意欲的な協力者だとしても、酷暑による体調不良の可能性も否めない。過酷な条件下で、善意の協力者たちが安全に活動できるよう、さらなる環境整備が期待される。
また、早朝や夜遅くに実施される競技のボランティアの移動手段は確保されるのか?
「交通各社に1、2時間程度の終電延長をお願いし、各社とも対応してくださっています。徒歩で2キロ以上離れている会場の最寄り駅にはバスを用意します」(同)
渋谷、新宿など主要駅から、晴海、調布など各会場行きのボランティア専用バスが運行される予定はないという。
元JOC職員でスポーツコンサルタントの春日良一氏は言う。
「ボランティアにお金を出さないのはおかしい、という論理のほうがおかしい。私はカルガリー冬季五輪にも行きましたが、選手たちの輸送はボランティアが担当していました。日本選手団に配属された運転手の中には現地の石油会社の社長さんもいました。彼らはボランティアで地元開催のオリンピックに携わる誇りと喜びを感じていた。日本人にはまだそういうボランティア精神が十分育っていないと思います」
そうした崇高さが基盤だとすれば、五輪ビジネスによって莫大な利益を得る企業が利益の一部を寄付や社会貢献に充てるなどといった、五輪ビジネス・マナーを確立することも必須ではないだろうか。
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