西野タイランドの挑戦 西野朗監督がU-23アジア選手権で見せた勝負師の顔

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タイ国民は支持

「自分はマグロみたいなもんだから」――。2012年4月19日のことだった。DVD付きムックの取材で西野朗氏に過去のナビスコ杯決勝の解説をお願いした際に聞いた言葉である。

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 当時は10年間務めたG大阪の監督を退き、サッカースクールを開催するなどフリーの状態だった。

 発言の真意を聞いたところ、「マグロは回遊魚で、泳ぎ続けていないと死んでしまう。自分も同じで、現場にいるのが一番なんです」ということだった。

 同じような発言を聞いたのはそれから4年後の16年3月、日本サッカー協会の技術委員長に就任した時だった。JFAハウス1階のバーチャルスタジアムでの会見後、取り囲んだ記者たちに自らこう話した。

「こうしてネクタイを締めて(スーツ姿で)、蛍光灯の下にいるより、ジャージを着て太陽の下にいたほうが自分には似合っている」

 やっぱり西野さんは生涯、現場にいたいのだな、と改めて痛感した。しかし、まさかタイ代表とU-23タイ代表の監督に就任するとは青天の霹靂だった。

 語学はあまり堪能ではないらしいということも、日本代表のスタッフから聞いていた。にもかかわらず、コーチなど日本人スタッフを1人も連れずに単身でバンコクへ乗り込んだのが昨年7月のことだった。

 西野監督がU-23タイを初めて率いたのは昨年末にフィリピンで開催されたシーゲームズ(SEA Games 2019=東南アジア競技大会)だった。東南アジアの五輪とも言われ、サッカーでタイは最多16回の優勝を誇る。

 ところが“西野タイランド”は、ベスト4にすら進めなかった。

 西野監督は「シーゲームズは去年のことなので忘れたいくらい。厳しい環境のなか、人工芝でのパフォーマンス、1日おきの試合は私のマネジメントが悪かった」と反省する。

 反省と同時に、貴重な戦訓も得た。「そもそもU-23代表は出場できる試合が少ない。そのため経験値が足りない。もっと試合をやれば、彼らも成長できる」ということだった。

「U-23アジア選手権では新しいメンバーで挑むと決めました。試合開始までの2か月で選手の強みを見つけ、それを選手に伝えました。チーム全体で見ると、守備はかなりレベルアップの必要がある。それに対してオフェンスのタレントはいる。技術が高く、スピードもある。そのため攻撃型のチームを作りたい。ボールをつなげる技術は通用するはずだと考えたのです」

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