南場智子(DeNA会長)【佐藤優の頂上対決/我々はどう生き残るか】
社員に起業させる仕組み
佐藤 その貴重な時間の中で、これから何に一番力を入れようとされているんですか。
南場 今までの20年間は、DeNAの成功、成長発展に集中してきたんですが、これからは閉じたDeNAという会社の中で、単独で何かをやる時代ではないと思うんです。私はよく「ザクロをひっくり返す」と言っていますが、ザクロは会社です。中にキラキラした粒である宝石のような人材がいっぱい詰まっていて、私はそれを外に出していきたい。DeNAは副業も兼業も自由ですが、そういう形ではなく、ファンドを立ち上げ、社内の優秀な人から起業させていきたいんです。
佐藤 それが「デライト・ベンチャーズ」ですね。
南場 はい。昨年、100億円のファンドを作りました。DeNAに集まったものすごく優秀な人たちに、マジョリティのエクイティ(株主資本)を持たせ、デライト・ベンチャーズからも出資させてもらって、応援する。もっと発展的に自らを開くことをやりたいんですよ。
佐藤 その試みは、多分に教育的なところがありますね。
南場 そうなんですよ。日本は初等教育から大きく間違っていると思うんです。コンフォーミティ(同調性)というのか、日本では周りと同じにすることが奨励されていて、一つの答えを言い当てると褒められるでしょう。
佐藤 それは、基本的には近代的な軍隊や近代的な工場のあり方ですね。
南場 ええ、間違えない人を量産するのは、加工貿易立国だった日本ではベストなんですよ。でもいまは、多様な考えを持つ人ほど高いパフォーマンスを上げている時代です。DeNAの経験の中でも、大きな喜びを届けるチームほど個性はバラバラです。そこに自分の独特の個性をどう持ち込むかが重要なんです。だから日本の画一的な、均質な人材を育てるところを変えないといけない。
佐藤 逆に画一化が進んでいる一面もありますからね。大学の入学式を見ると全員真っ黒いスーツで、やくざの義理掛けみたいですよ。男子も女子も。
南場 うち、リクルートスーツを着てくる人はいないです。新卒採用だけじゃないですしね。日本の会社はまず新卒一括採用を止めないといけない。それだけじゃなく終身雇用は即、止めたほうがいいですね。
佐藤 もうそれらはもたないでしょう。
南場 「モノからコトへ」とよく言われますけど、かつて持ち物でしか承認欲求を満たせない時代があったと思うんです。家が大きいとか、車がいいとか、あるいは学歴や勤務先だったりしたわけですが、SNSの発達によって、どんなことに関心を持っていて、何をしているか、あるいはどんな人と繋がっているかの方が大事になってきた。
佐藤 何をしているかと、何をしたいかですね。
南場 ええ。自己表現や承認欲求を満たすのは、もう持ち物じゃないんです。それにはフェイスブックやミクシィなどがすごく大きな役割を果たしたと思います。
佐藤 確かに変わりましたね。
南場 ただそれは、ネットとパソコンの中に閉じた話でもあります。それが今、ロボティクスとかIoTとか、AI、ビッグデータなどを用いて、物理的なリアルな社会に染み出してきています。移動も変われば作業も変わるし、仕事の仕方も変わる。
佐藤 そうなると、日本のモノづくりの出番があります。
南場 ドイツのメルケル首相とお話しした時「この20年間、米国勢にやられちゃったね」とおっしゃっていました。プラットフォームをとられてしまったという思いは、日本もドイツも同じです。でもこれからモノづくりとセットで展開していく時代には、日本やドイツは相対的な強みがあると思います。
佐藤 起業して成功するチャンスがある。
南場 その時に繰り返しちゃいけないのは、国内の視点でやらないことです。とりあえず日本で上場してそれから世界を考えればいい、と思った時には、もう日本市場に合わせすぎている状態なんですね。そこからグローバライゼーションするのはすごく大変です。いま起業している人はとても優秀な人が多いのだけど、まだまだドメスティックな思考が強いんですよ。せっかくの強みがあるのにチマチマと終わってしまわないよう、最初から世界を見てやっていって欲しいんです。
佐藤 「デライト・ベンチャーズ」、がぜん楽しみになってきましたよ。
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