南場智子(DeNA会長)【佐藤優の頂上対決/我々はどう生き残るか】
お追従を嫌うカルチャー
佐藤 すごいスピードで変わっていくネットの中で、「次にやること」は、どこから出てくるんですか。
南場 それは私じゃなくて、社員たちが出してきます。どういう分野に進出するか、ということだけじゃなく、戦略的な決定、例えばモバゲーのプラットフォームのオープン化なども社員が提案してきたものです。たくさんの提案がある中で、一つ一つみんなで判断してやってきた。私の判断力というよりは、みんなで決めてきた結果です。
佐藤 それでも「南場力」があるから、ここまで来られたわけでしょう。
南場 いえいえ、私の「南場力」は非常に乏しくて(笑)。この会社には優れた人がたくさんいます。
佐藤 会社が伸びて大きくなり、南場さんも大きな権力を持つようになると、お追従を言う人が必ず出てきますよね。そこはどう仕分けされているのですか。
南場 DeNAがすごく大事にしているのは、お追従を嫌うカルチャーなんです。それははっきり言葉にしているくらいで、「思考の独立性」と言ってみたり、社員は一人一人が「(会社という)球体の表面積」を担っている、と表現してみたり、阿(おもね)りを嫌う文化を作ってきました。
佐藤 マキャベリの『君主論』第23章に「追従を避けるにはどうしたらよいか」という章があります。君主にとって一番危険なのは追従で、阿る奴が前に出てくることであると。それを避けるには、助言を聞く際、特定の分野に分けて、その分野ごとの専門家を決めることだ、と書いています。
南場 なるほど。
佐藤 こちらが諮問した範囲内でアドバイスさせるということですね。もし阿ったことを言った時には、露骨に嫌な顔をしろ、と。
南場 露骨に嫌な顔と、マキャベリが書いているんですか。
佐藤 そう。それでアドバイスは聞いたままにしておいて、すぐに同意しない。決断は自分でする。そしてもし間違えても決断を変えない。これらが重要だと言っています。
南場 勉強になります。でも私、そもそも性格的に、おべんちゃらを言われるのが嫌いなんですよ。
佐藤 世界を見渡すと、中東の人たちは、特におべんちゃらを言われるのをすごく嫌いますね。おべんちゃらにはヤキモチが潜んでいて、どこかでこの野郎、と思っている。
南場 私はそこまで考えていなくて、生理的に苦手なんです。それと、やっぱり未熟な自分が正しい意思決定を下すのはとても難しいことで、その過程において、阿りってすごく邪魔な要素なんですね。
佐藤 それはそうですね。
南場 あと愚痴も嫌いです。大企業のコンサルティングをたくさんして、新橋ガード下的な愚痴もたくさん聞いてきましたから。
佐藤 新橋ガード下的な愚痴と並んで、虎ノ門的な愚痴というのもあります。こちらは2通りに分かれる。一つは、自分は能力があるのにそれが正当に評価されていないという愚痴。もう一つはこんなところやめて起業してやるというものです。
南場 ははは。二つ目はいいじゃないですか。さっさと起業してください。
佐藤 最初の方は、評価されることは絶対ないですね。2番目の方も、起業することはないでしょう。
南場 ああ、そうなんですね。
佐藤 起業の準備をしている人は、そんな酒場で仲間ととぐろを巻いて飲んでないですよ。
南場 私は人の評価で盛り上がるのも苦手ですね。やっぱりどうやって業績を伸ばすかとか、もっとインパクトの大きいサービスを世界に打ち出せるかとか、そういうところに集中したいんです。
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