近鉄はなぜあえて新型特急に「喫煙室」を設けたのか? 広報担当者に聞く

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 深々と座席に身を委ねて紫煙を燻(くゆ)らせる。そんな旅の情景がわが国で見られるのもあと僅(わず)か。今春からの法改正で、鉄道から「喫煙車両」が消えるという。世の大勢は拍手喝采でも、わざわざ新型特急に「喫煙室」を設ける鉄道会社があった。その不屈の心意気や如何に。

 4月から施行される改正健康増進法では、屋内施設や飲食店などでの喫煙が原則禁止となる。鉄道会社でも、ひじ掛けに灰皿がついた「喫煙車両」が全廃される運びなのだ。私鉄では営業路線の総距離が日本一を誇る近畿日本鉄道(近鉄)も、2月1日からは全席禁煙になると発表した。

 いやしかし、間髪容れず近鉄は、3月14日にデビューする新型特急「ひのとり」に、「喫煙室」を設ける予定。名古屋と大阪を結ぶ名阪特急として投入する編成のうち、3号車の一端をガラスで仕切る形で、立ち席ではあるが、風景も楽しめる愛煙家の憩いの場が誕生する。

 斯様(かよう)な設備は、JRだと東海道・山陽新幹線の車両のみ。私鉄だと近鉄が唯一と聞けば、よほど社内に愛煙家が多いとお見受けする。

「むしろ喫煙をする社員は少数派なんですよ」

 と首を振るのは、近鉄本社の広報担当者だ。

「弊社の路線は長い区間を走りますから、タバコを吸われる方とそうでない方、双方に配慮しています。この時代、喫煙者が少ないのは承知しておりますが、お客様からも“喫煙環境を残してくれてありがとう”というお礼の声を、いただいております」

 実は近鉄、既存の特急車両にも「喫煙室」を設けてきた。新型特急は“伝統”を踏襲した形なのだが、3年前には厚労省のヒアリングで、官僚から“私鉄で喫煙車を残すのは近鉄サンだけ”だと、公の場で非難される屈辱を味わっている。

「当時の車両部長が対応しましたが、きちんと分煙をしていれば法に触れるわけではないですから……。今も分煙するという姿勢を受け継いでおります」(同)

 愛煙家で鉄道にも造詣が深い経済アナリストの森永卓郎氏はこうも言う。

「あるタクシー会社に、喫煙者だけを乗せる車を運行すれば、長距離客が増えて儲かると提案したことがありましたが、嫌煙団体に抗議されて商売ができなくなると言われました。日本は法律が錦の御旗となり共存共栄の思想がありません。近鉄が喫煙者の人権を守る姿勢を貫くのは素晴らしい」

 世間に抗して気炎を吐く新型特急は、禁煙論者でほぼ満席の「ニッポン号」に、“一席”を投じられるか。

週刊新潮 2020年1月23日号掲載

ワイド特集「ガラスの人間動物園」より

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