独裁へ突き進む文在寅 青瓦台の不正を捜査中の検事を“大虐殺”
文在寅(ムン・ジェイン)政権が独裁にひた走る。青瓦台(大統領府)の不正を捜査する検事を一斉に閑職に追い込んだのだ。検事や裁判官を含む高官監視組織の新設に続く暴走だ。韓国観察者の鈴置高史氏が解説する。
青瓦台を捜査する検事を飛ばしてどこが悪い
鈴置:1月8日、韓国の法務部は最高検察庁の幹部、32人を地方などに左遷しました。文在寅大統領の側近の不正を捜査していた検事は全員、職を解かれました。保守系紙は「大虐殺」と呼んでいます。
12月30日の高位公職者犯罪捜査処(公捜処)――日本では「高官不正捜査庁」などと訳されますが――の設置法の強行採決に続く動きです(「文在寅政権が韓国の三権分立を崩壊させた日 『高官不正捜査庁』はゲシュタポか」参照)。
「高位公職者」には検事や裁判官を含みます。文在寅政権はまず昨年末に「政権が気にいらない捜査をしたり判決を下せば、牢屋にぶちこむぞ」と脅す体制を整えた。そして今年に入るとすぐに、気にいらない検事の粛清に乗り出したのです。
1月14日の新年の会見で、この人事に関し聞かれた大統領は「検察の人事権は法務部長官と大統領にある」「検察が特定の事件だけを選んで熱心に捜査すれば、国民の信頼を失う」と答えました。青瓦台を捜査する検事を飛ばしてどこが悪いのか、と開き直ったのです。
指揮権発動よりも陰湿
――指揮権発動ですね。
鈴置:それよりもたちが悪い。人事権を用いることで、事実上の指揮権発動を偽装するという、陰湿でせこい手を使ったのです。
確かに、検事の人事権は大統領にあります。しかし、検察庁法の34条は「人事案に関しては法務部長官が検事総長の意見を聞いた後に大統領に上げる」よう定められています。
保守派は同条項を掲げ、「秋美愛(チュ・ミエ)法務部長官が尹錫悦(ユン・ソクヨル)検察総長の意見を聞かずに発令したから、今回の人事は無効」と主張しています。
一方、政権側は「秋美愛長官が尹錫悦総長を呼び出して人事案を提示しようとしたのに、面会を拒否された」と説明。尹錫悦氏を懲戒する姿勢を見せています。
翌1月9日に秋美愛長官が、部下に対し「懲戒するための法令を探せ」と指示しました。国会本会議場でスマホに「指揮監督権限の適切な行使のための懲戒関連法令を見つけておいて下さい」と書きこんでいる姿が、毎日経済新聞のカメラに収められたのです。
「<単独>秋美愛『懲戒関連法令を探せ』と指示…尹錫悦を狙ってか」(1月10日、韓国語版)でその写真を見ることができます。
政権とすれば、検察の先頭に立って文在寅政権の不正を暴く尹錫悦検事総長を辞めさせたい。しかし検事総長の任期は2年間と決まっています。尹錫悦氏は2019年7月に就任したばかりで、今すぐには首にできない。
そこで秋美愛長官の呼び出したのに応じなかったことを「抗命」とみなし、処分に動いている――あるいはそう見せて牽制したのです。
検事を皆殺し、今は独裁時代か
――泥仕合になってきましたね。保守派は引き下がれないでしょう。
鈴置:もちろん、保守派は死に物狂いで抵抗しています。検察を左派が握れば、文在寅政権の不正を暴けなくなるだけではありません。自分たちが監獄に放り込まれるからです。
この政権がスタートして10カ月後の2018年3月の段階で、前の保守政権時代に長官・次官級のポストを歴任した11人が収監されました。大統領の2人は除いてです。
朝鮮日報の「懲役合計100年 『積弊士禍』の陰の理由」(2018年3月22日、韓国語版)が報じた数字です。
保守の最大手紙、朝鮮日報は社説で「独裁時代に戻った」と非難しました。「『青瓦台の捜査は任せた』と言っておいて、検事を皆降格、今は独裁時代か」(1月9日、韓国語版)の前文の最後が以下です。
・大統領の不法疑惑と大統領側近の不正を捜査するや否や、人事権を振りまわして報復を加え、強制的に捜査から手を引かせたのだ。独裁国家でしか起きないようなことが「民主化運動」政権で繰り広げられている。
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