「佐々木朗希」「奥川恭伸」 “黄金ルーキー”は1年目からどれだけ勝てるのか?

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 2020年、プロ野球界では新人選手の入寮、合同自主トレの様子が伝えられ、2月のキャンプへの準備が始まっている。今年も育成選手を含めて107人のルーキーがプロの世界に飛び込むことになるが、中でも注目を集めるのは佐々木朗希(ロッテ1位)と奥川恭伸(ヤクルト1位)になるだろう。高校野球の歴史を振り返っても、規格外の実力を誇る二人は果たして1年目にどのようなパフォーマンスを見せてくれるのか。チーム事情などから探ってみたい。

 まず佐々木だが、高校時代の慎重な起用法を見ても分かるように、体作りからスタートするというのが一般的な見方である。昨年11月にはチームが順天堂大の医学部と提携して、選手の健康面をサポートする体制を強化することが発表されたが、これも佐々木を怪我なく大成させるための意味合いが強いだろう。

 このような経緯からいわゆる『未完の大器』としてのイメージが強いかもしれないが、ピッチングそのものに関しては決して完成度が低いわけではない。武器は160キロのスピードだけではなく、変化球とコントロールも高校卒1年目としてはむしろ相当高いレベルにあると言える。体力的に万全の状態で投げることができれば、プロの一軍を相手にしても、ある程度、抑え込める可能性は高いだろう。

 そこで、佐々木の1年目のベンチマークとして最適なのがダルビッシュ有(カブス)だ。ダルビッシュは強豪校の東北高校出身で甲子園にも4度出場しているが、当時は体が成長段階にあり、本人も当時は満足な練習ができなかったと語っている。そんなダルビッシュが一軍デビューを果たしたのは6月に入ってからで、シーズン通算では14試合に先発して5勝5敗、防御率3.53という数字が残っている。当時のダルビッシュと現在の佐々木を比べると、変化球の多彩さや駆け引きの部分ではダルビッシュに分があるように感じられるが、ボール自体の威力については佐々木が大きく上回っているように見える。

 しかし、ロッテのチーム事情を考えると、エースの石川歩に加えてFAで美馬学を補強し、若手の二木康太、種市篤暉、岩下大輝などが伸びていることを考えると、佐々木に無理をさせる必要はないように感じる。交流戦後の7月くらいに一軍デビューを果たし、3勝から5勝くらいというのが現実的なラインと言えるだろう。

 一方の奥川は佐々木と比べても大舞台での経験が多く、少ない球数で長いイニングを投げられるという点でも、完成度はワンランク上のように見える。即戦力ではナンバーワンの呼び声高い森下暢仁(広島1位)と比べても遜色ないというのが印象だ。そして、佐々木と大きく異なるのがチームの投手陣事情だ。昨シーズン、ヤクルトの防御率は12球団でもダントツ最下位の4.78。規定投球回に唯一到達した小川泰弘も5勝12敗と大きく負け越しており、チームで最も勝利数が多い投手は、8勝をあげた石川雅紀だ。チームの勝ち頭が、今年で40歳となる大ベテランだったことを考えると、今季もまた、先発の頭数を揃えるだけで苦労する可能性が高い。奥川ほどの完成度があれば、開幕ローテーション入りという声が上がっても不思議ではないだろう。

 だが、高い完成度を誇る奥川にも“不安要素”がないわけではない。昨年春の選抜終了後には、右肩の張りを訴えてしばらく登板を回避している。少しステップの幅が狭いフォームを見ても、上半身に負担がかかりやすいようにも見える。また、ヤクルトの投手陣は伝統的に故障者が多く、青木宣親が施設の改善を訴えるなどハード面にも不安が残る。投手出身の高津臣吾新監督と比較的若い投手コーチ陣が、奥川の状態をどう見極めて起用するか、極めて重要になってくるだろう。前半戦は顔見せ程度の登板にとどめて、後半戦から本格的にローテーション入りして5~8勝というのが現実的な目標と言えるのではないか。

 近年では田中将大や藤浪晋太郎が1年目から二桁勝利をマークしているが、この二人は高校時代から体の強さが際立っており、比較するのは危険である。ダルビッシュや大谷翔平のように1年目は“試運転”にとどめ、2年目に大きく成績を伸ばすというプランが長い目で見れば良いのではないだろうか。ファンの期待は大きいが、二人の真価が発揮されるのは2021年以降となる可能性が高いだろう。

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年1月21日掲載

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