北島義俊(大日本印刷会長)【佐藤優の頂上対決/我々はどう生き残るか】

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3次元の重要性

佐藤 紙の未来はどのようになるとお考えですか。

北島 今後、電子書籍がさらに普及していくことは間違いないでしょう。だからといって、紙媒体がなくなるとは思えない。電子で見るのと、紙の本で読むのは、本質的に違うことだと思います。

佐藤 書籍は3次元ですからね。私は自宅とは別にマンションに部屋を借りて書庫にしているんですが、そこに1万2千冊ほどあります。そのくらいなら、何がどこにあって、どんな内容か、だいたい覚えられますよ。

北島 すごいですね。

佐藤 パソコンで検索するより速く見つけられる。3次元であることが重要なんですよ。名刺の整理ソフトだって、あまり役に立たないでしょう。だいたい3千枚くらいだったら、名刺フォルダで処理できる。それは名刺フォルダが3次元だからですよ。

北島 確かに、だいたいこの辺にあったな、ということはわかりますね。

佐藤 それと背表紙がヒントになって、いろいろなことを思いつく。そうした3次元のインデックスって必要だと思うんですね。

北島 本でも、ページをめくったり戻ったりしながらものを考えますね。そういう機能は絶対に必要だと思います。ネットの情報量やスピードはすごいし、どんどん進化していくでしょうが、紙媒体は必要ですから、両者をいかに融合させて新しいサービスを作りだしていけるかが大事になってくると思います。

佐藤 そうなるとまた新しいビジネスが生まれますね。では、そうした事業を展開するにあたり、どんな人材が欲しいですか。

北島 やはり多様な価値観や立場の違いも踏まえて、相手の話にじっくり耳を傾けられる「TAIWA」ができる人ですね。

佐藤 大日本印刷は就職ランキングの上位に入っていますから、入社希望者が大勢来るでしょう。

北島 最近は女性が来てくれるようになりました。新卒入社の4割が女性です。いろいろなことにチャレンジできるということで、評価していただいていると思っています。

佐藤 しかもダイバーシティ推進室を作られたり、副業・兼業を認められたりと、様々な取り組みをされていますからね。

北島 副業を認めたのは最近のことで、2019年の4月からです。

佐藤 どういう人がいるのですか。

北島 当社にはIT関係の人材も多いものですから、休みを利用してプログラムを開発している人がいますね。あるいは自分の住んでいるところで地域創生のお手伝いをしているとか。あとは実家の家業をやる人が多いですね。

佐藤 大企業の人が家業を継ぐために辞めることはよくありますが、しっかりした番頭がいれば、フルタイムで働かなくてもマネジメントはやれるでしょう。伝統ある会社が副業を認めて、会社のためにもしっかり働いてもらう。そこで重要になるのは健全なる愛社精神だと思うんですよ。

北島 その通りですね。これからはやはり多様な働き方を認めていく時代なのだと思います。また少子高齢化社会ですから、高齢の人がどう働けるかを考えなければいけないとも思っています。

佐藤 それも大きなテーマですね。大日本印刷の開発した血管で、多くの人の寿命が延びるでしょうからね(笑)。

北島義俊(きたじまよしとし) 大日本印刷株式会社代表取締役会長
1933年東京生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。58年富士銀行(現みずほ銀行)入行。63年大日本印刷に入社、専務、取締役副社長を経て、79年から代表取締役社長。2018年代表取締役会長。また日本経済団体連合会常任理事、東京商工会議所新宿支部副会長などを歴任。07年に仏レジオン・ドヌール勲章コマンドゥールを受章した。

週刊新潮 2020年1月16日号掲載

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