日本は一応、先進国だけど…“アジアは安い”幻想(中川淳一郎)
2019年末、私は突然憂国の士みたいになっちゃいました。あまりにも安すぎる日本の賃金と物価を放置しておけば我々は世界での競争力を失い、海外資本から買い漁られる! とネットで書き続けたのです。
しかし、ここで比較していたのはG7加盟国やシンガポール、香港ぐらいだったのですが、タイ・バンコクに来て「こりゃ本気でマズい」と思うに至りました。年末年始は海外に行く生活がこれで13年連続となりましたが、これまで「楽しく過ごすのに物価が安くていいよね」と思って来ていたバンコクの物価が明らかに上がっているのです。
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そして、街中で「イイオンナイルヨ」「コニチハ」「オイシイヨ」などと声を掛けられることがほぼなくなりました。日本人はもはやカネづるではなくなったのです。確かにこの数年、カンボジアやタイで日本人の若者グループがレストランで1杯ずつビールを頼み、あとは無料の水だけで1時間以上ダベってる姿に現地の人が気分を害しているのを見るようになりました。
「ケチなことやめろよ……」と思ったのですが、日本の物価に慣れた私は今回、明らかに過去との違いを感じたのです。
2012年までは1万円が3700バーツほどでしたが、現在は2800バーツほど。つまり、1バーツが2・7円→3・6円になりました。
そして、タイの成長を感じるのが、庶民が買うものの価格の上昇です。氷の入った手押し車にマンゴー、パパイヤ、スイカ、パイナップルなどのフレッシュフルーツを並べて売っているのですが、これが5年ぐらい前までは10バーツだったのが20バーツに。オレンジジュースは25バーツが35バーツを経て50バーツになりました。
もちろん、首都バンコクの価格であることは理解しつつも、これを東京と比較したらどうなるのか? バンコクではマクドナルドのダブルチーズバーガーセットが740円! 日本では640円です。
1996年頃のタイ航空のCMでは、若き日のいしだ壱成がタイの異空間を体験し、「タイは、若いうちに行け。」のコピーで、しきりと日本の若者を招こうとしていました。あの頃は学生も「国内旅行をするより安いよね」なんてガンガン行っていましたが、多分今はあの感覚ではありません。
日本は一応「先進国」扱いで、タイは「発展途上国」扱いです。しかし、昨今は日本を訪れる外国人が「爆買い」をしたり、北海道・ニセコの外国人向けの飲食店では海鮮丼が5千円したりする。
彼らは、もはや日本人を相手にしていない高級ホテルやコンドミニアムに泊まり、こうしたランチをいとも簡単に食べる。そうです、1990年代に我々が東南アジアでやったことをやっているのです。
ロンドンに赴任した日本の超大企業の友人から先日、嘆きのメールをもらいました。46歳の彼は明らかに役員候補ですが、曰く「オレは日本人としては金持ちだけど、イギリスのサラリーマンが躊躇なく飲むコーヒーが飲めない……」。でも、こうしたことを書くと「上から目線!」とネットで叩かれるだけ。だから貧乏になるんだよ……。