東京五輪を逃したレスリング「登坂絵莉」 リオ五輪「金メダリスト」はパリを目指すのか
「先輩、頑張れ―」川井は懸命に声をかけたが、登坂は若い力に押されて点差は開く。須崎にマット外へ押し出されてしまう場面も目立つ。「ドドーン」、一度など押された勢いで広告看板を吹っ飛ばした登坂が、筆者が立っていたカメラマン席の下へ落ちてきた。一方、「そう、その調子よ」と相手の須崎にマットサイドで指示していたのは筆者にも懐かしい全日本選手権8度優勝の名選手、吉村祥子さんだった。
逆転を狙った得意の片足タックルは不発に終わり準決勝で敗れた登坂だが、6月の選抜選手権の敗戦時のような、マット上で崩れ落ちしばらく歩けないような茫然自失の様子は今回の敗北の瞬間に見られなかった。「やれることはすべてやった」と淡々としているようにも見えた。6月の敗戦で「須崎選手に勝つのは難しい」と肌で感じていたのかもしれない。
五輪が完全に消えた登坂は翌日、3位決定戦に臨む。伊藤海(17・ 網野高)に対し、次々とバックを取り、片足タックルなども決めて圧倒、五輪だけがレスリングの試合ではないことをきっちりと見せてくれた。「優勝を目指していたので、出たくないな、という気持ちもあったけど、(3位の)権利がある。減量も無理はなく、出られるものを出ないといけない。応援してくれた人に頑張る姿だけでも見せられたらいいと思った」と打ち明けた。ひたむきで義理堅い女性の姿に「登坂絵莉」と書かれた横断幕近辺では涙顔の応援団から大きな拍手が湧いた。
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