新幹線無差別殺人犯「小島一朗」独占手記 私が法廷でも明かさなかった動機

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反省も更生もしない

 翌朝、役所の人が来る。

「もう入らないと言ったじゃないか」

「しばらくは入りません、と言った。しばらくとは3時間のことだ。カントは嘘をつくことを道徳的に認めていないが、言い逃れをすることは認めている。雨が止んだら、出て行く。天気予報によれば、明日には止みますから。今日はここで雨宿りさせてください」

 役所の人は警察に通報した。

「入るなと言っただろう」

「上では雨に濡れるから入った。ここの方が安全である。これは緊急避難だ」

「意地になっているのか?」

「意地になっているのは貴方かもしれない。それはフロイトの精神防衛機制でいうところの投影というやつだよ。自分が思っていることを相手が思っていると勘違いをしているのだ」

「意味が分からない。病院に行くか?」

「フロイトの精神防衛機制は中学校の義務教育で習う内容であって、それが分からないのは貴方の教養が足りないのだ」

「どうしたら出ていってくれる?」

「雨が止んだら出ていく」

「それ以外」

「行政代執行してください。いついつまでに立ち退けと書面で告知してください」

「それ以外で」

「蓬莱の玉の枝か、火鼠の皮衣を持ってこい」

「なんだそれは。病院に行くか?」

「竹取物語は義務教育だろう。それが分からないのは教養が足りないのだ」

「おかしいって。病院に行こう」

「断る。緊急性がなく本人が断っている以上、それは警察の仕事ではない」

「この東屋はボロボロだ。いつ崩れてもおかしくない。危険だから出ていけ」

 警察が東屋の柱を蹴りだす。

「この東屋は危険ではない。それは貴方も分かっているはずだ。だから、柱を蹴ることができる」

「他人の立場になって考えろ」

「貴方も私の立場になって考えてみてください」

「もしお前の土地に誰かが居座ったらどうするんだ?」

「私有地と公有地では扱いが違う。ホームレス自立支援法第11条は公有地を対象としておりますから」

「おかしいんじゃないか? 病院に行くか?」

「断る。緊急性がなく、本人が断っている以上、それは警察の仕事ではない」

「どこの仕事なんだ?」

「分からないなら、一度、警察署に戻ってお勉強しておいで」

「どうしてそんなに偉そうなんだ」

 警察が私の下に敷いていたブルーシートと断熱シートを無理矢理奪い取った。私は転倒して左膝を擦り剥いて、出血する。そしてまた昨日みたいに、どついたりゆさぶったり、引き倒したりするようになった。

「これは暴行だぞ」

「現行犯逮捕だ、文句あるか?」

「逮捕するなら、手錠をかけろ。私は抵抗しない」

「逮捕されたいのか?」

「逮捕したくないのか?」

「したくないから説明しているんだろう」

「したくないなら逮捕するな。ただし、説得は無理だ」

「なら、逮捕する」

「なら、手錠をかけろ。これは暴行だ。暴行はやめろ」

「お前が出ていったら、やめてやるよ」

 しばらく寝袋の中で丸まって耐えていたら、どこからか4人目の警察官が飛んできて、暴行をやめさせる。

 4人目の警察官が言う。

「障害者手帳を見せて」

 私は手帳を見せた。

「明日は立ち去るように」

 4人目の警察官が、他の警察官に指示を出して、みんな帰っていく。

「明日、まだ居たら、またやってやるからな」

 警察の職務質問は21日22日ともに、9時から16時くらいの7時間ほど。常にどなられっぱなしで、暴行にはまいった。出血は右手の人差し指から薬指までの3本にある爪がめくれたこと、左膝を擦り剥いたくらいで他はない。

 警察の挑発は公務執行妨害を誘発させようとして行われるものだと思われるが、しかしあれは限度を超えて違法ではないだろうか? 警察の発言の中で一番ひどいと思ったのは、「なら、制服を脱いだらやっていいんだな」である。次は、「現行犯逮捕だ、文句あるか?」であり、結局逮捕せず、暴行するだけ暴行したことも合わせて、ひどい。

 それから、私は22日の夜には裏寝覚を出て、道の駅のトイレに入り、23日の朝5時にはそこを出た。19号線沿いのコインランドリーで服を洗い、木曽署の近くにある銭湯に入って垢の皮を落とす。閉店まで銭湯に居て、それから諏訪に向かって自転車をこいだ。

 諏訪で6月9日まで、毎日、温泉に入り、外食をして、体力をつけて、身体を治し、事件当日の朝、「あずさ」で新宿に行き、夜まで遊んだ後、新幹線に乗り、新横浜を過ぎてから、ナタとナイフを取り出して、無差別殺人をして、やっと逮捕された。

 子供の頃から刑務所に入りたかったけれど、そこまでのことをするのはどうかな、と思っていた。だが、警察すら、法律を守る気がないのに、自分だけ守っていてもしかたない。自分の人権は守られないのに、他人の人権を守っていてもしかたない。

 そう思って、人を殺してでも刑務所に入ろうと思った。どうせ刑務所に入るなら、無期刑になって一生を終えたい。3人殺したら死刑になるから、2人までにしようと思っていた。1人殺して、2人に重傷を負わせたから、これでもう無期刑が狙えると思った。それに1人殺すのに手間が掛り過ぎて、肉体的にも精神的にも疲れてしまったので、あのときはもうあれ以上、やることはできなかった。

 刑務所でどのような矯正をされようと、反省もありえないし、更生もありえない。もし有期刑になって、出所することになったら、また人を殺す。刑務所がなぜ幸福な生活であるか知ることはできない。それは信じることだ。

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