文在寅政権が韓国の三権分立を崩壊させた日 「高官不正捜査庁」はゲシュタポか
韓国の三権分立が完全に壊れた。左派の文在寅(ムン・ジェイン)政権が検察や裁判所を監視する組織を作ることに成功したからだ。左派は司法を掌握し、永久執権を目指す。韓国観察者の鈴置高史氏が隣国の民主主義の崩壊を解説する。
曺国・前法務部長官も免罪可能に
鈴置:2019年12月30日――。100年後に書かれる韓国政治史では「民主主義が崩壊し始めた日」と記録されるでしょう。国会で「高官不正捜査庁」を設置するための法案が可決されたからです。
高級公務員の不正を暴くための捜査機関で、韓国語を直訳すると「高位公職者犯罪捜査処」(公捜処)と言います。2020年7月に設置の見込みです。
――この新たな機関がなぜ、民主主義を破壊するのでしょうか?
鈴置:青瓦台(大統領府)が完全に検察を牛耳ることになるからです。高官不正捜査庁の長官は大統領が任命します。法曹資格を持った職員も、多くが左派の弁護士から選ばれると見られています。要は左派政権の直轄組織――手足です。
高官不正捜査庁は政府高官を独占的に捜査する権限を持ちます。今後、検察が高官を捜査する時、高官不正捜査庁に報告する義務が生じます。同庁は検察に対し「自分が担当するから手を引け」と命じることもできます。検察が政権のスキャンダルを暴こうにも、ここで阻止できるようになります。
例えば現在、検察は曺国(チョ・グッ)前法務部長官を捜査し、一部の容疑は立件しています。曺国氏は文在寅大統領の懐刀ですから、韓国では「大統領の犯罪」にまで広がる可能性が取りざたされていました。
でも、高官不正捜査庁の発足後は、検察は曺国氏の捜査を高官不正捜査庁に取り上げられてしまう可能性が大きい。
検事・裁判官に「お前を起訴するぞ」
――すごい防御兵器を手に入れましたね、青瓦台は。
鈴置:高官不正捜査庁は極めて有効な攻撃兵器でもあります。「政府高官」には検事も含まれます。青瓦台は今後、「お前らを起訴するぞ」と検察に脅しをかけ、気にくわない人を訴えさせることもできるわけです。
――そんな無茶をしても裁判所が有罪にはしないでしょう。
鈴置:「政府高官」には裁判官も含みます。青瓦台は高官不正捜査庁を通じ、裁判所にも圧力をかけられるようになるのです。
すでに裁判所は左派の強い影響の下にあります。裁判官の多くは「左」です。そのうえ、文在寅政権は最高裁判所の長官に左派として有名な裁判官を任命しました。
韓国政府も「1965年の日韓請求権協定で解決済み」としてきた戦時の朝鮮人労働者の問題で、2018年10月に韓国の最高裁判所が新日鉄住金に対し「カネを払え」と命じたのも「左傾化」が根にあります。
今まででも李明博(イ・ミョンバク)元大統領、朴槿恵(パク・クネ)前大統領、梁承泰(ヤンスンテ)前・最高裁長官ら保守派が相次ぎ起訴、収監されてきたのです。
裁判所に加え、検察も手中に収めた青瓦台は今後、政権に敵対する人々に対し、思うように罪を着せることができます。三権分立の完全な破壊です。左派の独裁が始まるのです。
「権力の不正を暴く」はずが……
――なぜ韓国は、三権分立を破壊する組織を作ってしまったのでしょうか?
鈴置:「検察を改革せねばならない」との思いが韓国人に強かったからです。1948年の建国以来、検察は青瓦台の手先でした。大統領は政敵を倒すため、検察を悪用してきました。
検察は容疑をでっちあげて起訴する。裁判所も政権を忖度して有罪にする。韓国では法律は個人を守るものではなく、個人を貶めるために使われてきたのです。
もちろん検察は政権の不正を暴くこともありませんから、権力を握った人々はやりたい放題でした。1976年7月に、自民党を支配していた田中角栄氏が逮捕された時には、韓国人から「やはり先進国は違う」との感嘆の声が漏れたものです。
私がソウル在勤中――1990年前後のことですが「我が国では権力に近くないと、ある日突然に犯罪者にされてしまうのだ」と説明されたものです。
保守政権の手先を務めてきた検察の改革に、歴代の左派政権は熱心でした。保守の人々からも一定の支持を得ていましたが、それはなかなか進みませんでした。敵対者に睨みを利かす道具「無敵の検察」は権力を握った側にとって、便利この上もないからです。
2017年5月にスタートした文在寅政権も「検察改革」を掲げました。初めは「起訴権だけでなく捜査指揮権まで独占する検察の権限を縮小する」「日本のように警察にも本格的な捜査権を与える」といった常識的な線に落ち着くかと見られていました。
それが「検察が諸悪の根源なのだから、検察を監督すべきだ」という主張に変わり、青瓦台の直轄組織として高官不正捜査庁が発足したのです。
「権力の不正を暴く」ための改革が、いつのまにか「権力の不正を見逃す」方向へと180度変わってしまった。「権力の乱用を防ぐ」はずが、「権力を強化する」ことになってしまったのです。
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