「福良GM」がオリックスを大改造  メジャーの超大物など大胆補強で“イチロー以来”の日本一へ 

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 現在、セ・リーグを圧倒して隆盛を誇るパ・リーグにあって、近年唯一低迷していると言える球団がオリックスだ。過去10年間でAクラス入りを果たしたのは2014年の1度だけ。日本シリーズ進出となると、イチローが主力として日本一に導いた1996年以来遠ざかっている。しかし、そんなオリックスが少しずつ変わり始めた印象を持つファンは少なくないだろう。その仕掛人となっているのが19年6月にゼネラルマネージャー(以下GM)に就任した福良淳一氏の存在だ。就任から約半年、福良GMの手がけた補強を振り返り、来季のオリックスについて展望してみたいと思う。

 就任した福良GMがまず仕掛けたのが他球団との交換トレードだった。松葉貴大、武田健吾を放出して、中日から松井雅人と松井祐介を獲得。さらに金銭でモヤも同時に獲得し、大型トレードへと発展した。松井雅人、松井祐介とも19年シーズンは目立った活躍を見せることはなかったが、捕手が手薄なチーム事情を考えると経験が豊富な松井雅人が加わったことは大きなプラスである。そして、モヤは64試合で10本塁打を放ち、長打力不足に悩むチームにとって救世主的な存在となっている。モヤを金銭だけで獲得しようとしても、不調に終わった可能性が高く、松葉という実績のある投手、若手で伸びしろのある外野手の武田の話もあわせて持ち込んだことが、この成果に繋がったと言えるだろう。

 次に大きく変わったのがドラフト戦略である。1位指名の抽選を2度外したものの、宮城大弥(興南)と紅林弘太郎(駿河総合)という将来性のある高校生二人を上位で獲得。チームが低迷していると、安易に即戦力に向かう球団が多いが、そうならなかったことを評価できる。また、3位の村西良太(近畿大)で、疲れが見られる投手の多いリリーフを手当てし、4位の前佑囲斗(津田学園)で将来の先発候補、5位の勝俣翔貴(国際武道大)でチームに足りない長打力を補おうとするなど、非常に目の行き届いた指名だった。

 育成枠でも高校生を中心に12球団で最多となる8人もの選手を指名。くわえて、21年からはソフトバンクの成功例にならって、「三軍制」も導入すると言われている。また、二軍の本拠地である舞洲の整備を進めているのも大きな変化である。かつて契約金0円で大量に選手を指名するなど、資金を使わずに強化しようとした時期もあったが、その頃に比べると確実に、今のやり方は成功確率が高いだろう。

 そして、19年オフ、最大の補強がアダム・ジョーンズの獲得だ。メジャーでの14年間で通算1939安打、282本塁打を誇り、オールスターに5度も選出され、ゴールドグラブ賞も4度獲得した“超大物”。19年シーズンもダイヤモンドバックスで16本塁打、67打点をマークしているようにまだまだその実力は衰えていない。課題の長打力不足の解消に、これ以上の補強はなかなかないだろう。この大物獲得に向けて、レギュラー格の大城滉二に背番号10を変更させたが、プライドを損なわないように一桁の9番を用意。また3年契約の最終年でFA権を保有しているT-岡田に対しても早々に残留交渉をまとめ、プエルトリコのウインターリーグに派遣するなど復活に向けてアシストした。外から獲得する選手だけでなく、現有戦力に対するフォローもしっかり行っていることがよくわかる。

 19年シーズン、チームは最下位に沈んだものの、山本由伸が最優秀防御率、山岡泰輔が最高勝率のタイトルを獲得し、榊原翼、K-鈴木、竹安大知、張奕といった若手の投手は確実に育ってきている。野手もまた、吉田正尚が太い柱に成長したことも大きなプラス要因だ。二軍を見ても投手は鈴木優、本田仁海、東晃平、野手は太田椋、宜保翔、根本薫など高校卒の選手に成長が見られているのは、今までのオリックスになかったことである。監督としては、4年間で一度もAクラスに進出できなかった福良GMだが、今の良い流れを加速させようとする意図が明確になってきている。イチローが活躍した栄光の時代から遠ざかっている日本シリーズ進出に向けて、今後の動きにもぜひ注目したい。

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年1月5日掲載

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