映画「パラサイト 半地下の家族」が浮き彫りにする韓国社会の悲しい現実

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半地下の住宅が急増した意外なワケ

 試写会のあと友人から「韓国では本当に映画のような半地下の住宅があるのか?」と聞かれたが、ソウル市内でもよく目にする。まるで山道のような急な坂に建つ住宅に半地下の部屋があるという光景は、さほど珍しくない。

 元々は朴槿惠(パク・クネ)前大統領の父・朴正熙(パク・チョンヒ)大統領が1970年代に北朝鮮との戦争に備え、住宅を建築する際は防空壕の役割を果たせる地下施設を設置するよう義務付けたのがきっかけという。

 当時は都会ソウルの人口が急増していたこともあり、こうした半地下の部屋も居住用として使用されるように。その後、建築法が改正され、半地下は義務ではなくなったが、環境が劣悪な分、家賃が安いので今も需要はある。マンションの建設が進むにつれ、90年代をピークに減少傾向にある半地下の住宅だが、映画に登場するキム一家のように今も住んでいる人はいるのだ。

 過去に半地下の部屋に住んだことのある韓国人女性に話を聞いてみた。

「家賃は安いけれど、当然、日当たりは悪いし、一年中湿気が多く壁にもカビが生えやすい。大雨が降って雨漏りしたこともある。プライバシーなんてあったもんじゃない」

 映画ではトイレが不思議な位置に設置されているが、これは水質が弱いために家の一番高い位置にあるのだ。

セレブ妻が食べる庶民的な料理は韓国で流行った“チャパグリ”

“高台の豪邸”に住むセレブ妻ヨンギョの食事シーンで、韓国人が「えっ?」と驚く演出があった。それは彼女が“チャパグリ”を食べるシーンだ。

 字幕では分かりやすく“ジャージャー麺”と訳されているが、“チャパグリ”とは「チャパゲティ」というインスタントのジャージャー麺と、「ノグリ」といううどんタイプのラーメンを半分ずつ入れて作る料理のこと。以前、芸能人が創作おやつを披露する番組で紹介し、韓国で流行った。

 庶民の代表的なおやつ“チャパグリ”をセレブ妻のヨンギョが食べたことが印象的だったという韓国人もいる。ところがヨンギョは、これに高級な韓牛のサーロインを入れて食べている。普通、“チャパグリ”には肉など入れない。このシーンで多くの韓国人が「金持ちでも“チャパグリ”の美味しさが分かるのか」と驚き、「けれど牛肉を入れるなんて、やっぱり金持ちのやりそうなことだな」と思ったという。

 過去に韓国映画で、庶民が「このラーメンも俺たちには食事だが、金持ちにはおやつだ」と嘆きながら辛ラーメンを食べているのを見たことがあるが、本作でもパク家は犬のエサに「日本のカニカマ」を与えている。

 ちょっとしたセリフの中にも貧困層のキム家とは対照的な一面を見せているが、セレブ妻のヨンギョは嫌味なタイプではない。むしろ天然キャラだ。それは映画の中のセリフで納得できる。

「お金があるから素直で明るい。人はお金のおかげで明るくなり、キレイになれるんだ」

金も実力もなくても“コネ”さえあれば生きていける!?

『パラサイト 半地下の家族』の原題は『寄生虫』だ。貧しいキム一家が向かう“高台の豪邸”。そこは最高の就職(パラサイト)先に違いなかった。

 キム一家の主ギテクは、これまでチキン店、カステラ店、代行運転等で生計を立ててきたが、どれも失敗している。韓国では、リストラされて職を失った人がチキン店を開くケースが珍しくない。ソウルの街は、国民食ともいわれるチキンの店だらけだ。それだけ韓国人がチキンを好んでおり、比較的簡単に開業できるからだが、すでに飽和状態に陥っている。台湾カステラの店も韓国で一時期流行ったが、飽きられるのも早かった。映画のセリフからギテクは両方に手を出し、両方とも失敗したことが伺える。

 息子で浪人生のギウにとって、パク家での家庭教師のアルバイトはうまい話だったに違いない。セリフにもあるが、韓国は今「警備員1人の採用枠に500人もの大卒者が集る時代」。仮に大学に合格したところで、今度は就職難にぶつかるのは目に見えている。

 だが、たとえ金持ちでなく、実力がなくとも、“コネ”さえあればなんとかなるのが韓国社会。裕福な家庭に足を踏み入れた青年が、この家族に強固な繋がりを求めたのは、いたって自然な考えだろう。口利き一つで人生を変えられるかもしれないからだ。

 韓国人に聞いてみたところ、映画の感想は様々だった。「面白い!」と即答した男性もいれば、過去に半地下の部屋に住んだことのある女性は「あえて見なかった」という。予告編を見た瞬間、当時を思い出したくないと感じたそうだ。

 また、「どこまでも庶民の私は、生活のためにガムシャラになっているキム家に共感を覚えた」という率直な感想も聞かれた。

 映画は前半こそコメディーで笑えるが、気づけばとんでもない沼にハマっていく。

『パラサイト 半地下の家族』で韓国における格差社会の深い闇を見た気がした。

児玉愛子(ライター)

週刊新潮WEB取材班編集

2020年1月5日掲載

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