観光公害対策はハワイに学べ バブルで押し寄せた日本人、現地住民はどうしたか

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新たな「おもてなし」とは

 これはわかりやすく言えば、外国人観光客と地元住民の摩擦がなるべく起きないように、外国人観光客の活動エリアを作ってそこへ誘導していくという考え方である。例えば、オアフ島では、外国人観光客をワイキキビーチやアラモアナ・ショッピングセンターなどへ誘導したことで、それ以外の住民の居住エリアへの「侵入」の拡大を防いでいる。

 この「ゾーニング」によって、「観光公害」を抑制したのはハワイだけではない。スペインのマヨルカ島だ。年間1400万人の観光客が訪れる、バレアレス諸島最大の島・マヨルカ島は、ヨーロッパ屈指の人気観光スポットであり、過去には外国人観光客数が急増しすぎて様々な「観光公害」が発生した。が、99年からゾーニングを導入したことで、居住エリアと観光スペースの分離に成功し、「マナーの悪い外国人観光客」と住民の衝突を回避しただけではなく、無秩序な観光開発の抑制にも成功したのである。

 このような過去の事例に学べば、京都をはじめとした「観光公害」に悩まされる自治体が取るべき道は自ずと決まってくる。

 まず、殺人的な混み具合となっている京都への外国人観光客の「一極集中」を緩和するために、周辺へ誘導していく。周辺とはどこかというと例えば、隣接する奈良県だ。京都の外国人訪問客数が年間800万人を超えているのに対して、奈良の訪問客数は約200万人。平城宮跡や東大寺など京都にも劣らぬ文化財があることを踏まえれば、まだまだ外国人観光客受け入れの余裕はある。このような周辺への分散に加えて、さらに居住エリアと観光スペースを明確に分離するというゾーニングも必要だ。

 そのような棲み分けが進めば、究極的には外国人観光客が殺到する人気スポットやホテルと、日本人観光客が目指すスポットやホテルを分けていくこともできる。そんなのはまるで差別をしているようだと思う方には、カプセルホテルをイメージしていただきたい。女性客専用エリアと、男性客のエリアは明確に分かれている。ゾーニングで宿泊客同士の過度な接触を回避し、余計なトラブルを未然に防いでいるのだ。

 冷静に考えれば、観光客が遠い異国の地だからこそ堪能したい「非日常」と、住民がいつもどおり静かに過ごしたい「日常」を同じ場所に詰め込んでうまくいくわけがない。ウマの合わぬ者同士、最初から顔を合わせない方が互いに優しくなれるに決まっている。

 深刻化する「観光公害」に、日本人の我慢もそろそろ限界。「反観光デモ」でも起きぬ前に、ゾーニングという新しい「おもてなし」の形を検討すべきだ。

鈴木大和/ジャーナリスト

週刊新潮 2019年8月8日号掲載

特集「インバウンドで嬉しくない悲鳴! 名勝地はガマンの限界という『観光公害』」より

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