「観光公害」はガマンの限界 舞妓が被害届の京都、“おもてなし奴隷化”する王子…
「反観光テロ」まで
このように全国で外国人観光客の傍若無人な振る舞いによる被害が報告される一方で、近年は異なるタイプの「観光公害」も住民を悩ましている。「日本らしい穴場」を求める外国人観光客が、観光スポットとして整備された場所ではなく、生活圏に勝手に押し寄せてしまったことで、地域住民が仕方なく対応を強いられる。そんな「おもてなし奴隷」ともいうべき現象が増え、高齢化が進む地域コミュニティを疲弊させているのだ。
その代表が、東京の王子商店街だ。ここでは毎年、大晦日の夜に、狐のメイクをして装束を身につけた人々が提灯を持って王子稲荷神社まで練り歩く「王子 狐の行列」という年越しイベントが行われている。これを外国人向けのフリーペーパー「タイムアウト東京」が、「年越しにやるべきこと」と紹介したために一気に注目を集め、昨年の大晦日にはなんと5千人の外国人が殺到したという。
そう聞くと、商店街はさぞ潤ったのではないかと思うかもしれないが、そんなことはない。このイベントの運営のため、商店主の多くは店を閉めている。開いている店も外国人観光客はほとんど利用しない。彼らは「行列」が目当てなので、せいぜい近隣のコンビニで買い食いをするくらいなのだ。商店街の有志が希望者に施す500円の「狐メイク」は大盛況で長蛇の列ができるが、これもイベントの運営代でほぼ消える。つまり、5千人の外国人観光客を相手に、地域住民が大晦日の夜に「無償でおもてなし」をしている、という極めて理不尽なことが起きているのだ。
「もともと商店街と地域住民の親睦を深めるための交流イベントなので、観光客で稼ぐという意識もないが、日本文化を知りたいという外国人への“おもてなし”だと思って対応している。しかし、商店街も高齢化が進んでいて、大晦日くらい休みたいのに、こんなに無償で働かされて、もうやめたいという意見も多くなっている」(商店街関係者)
このような「外国人観光客疲れ」というのは、実は日本に限った話ではなく、「観光立国」として名をはせる国でも次々と起きている。わかりやすいのがスペインのバルセロナだ。
ゴミや混雑の問題はもちろん、環境破壊、治安悪化、そして観光地の不動産が高騰して、地域住民の暮らしを直撃している。そのため、観光ビジネスを担う労働者までもが職場の近くに住むことができず、ホテルやレストランが人手不足に陥るという皮肉な現象が生じるなど、日本に輪をかけて酷い「公害」が多数発生。ついには「観光客は出ていけ」と声を嗄らす「反観光デモ」まで起きているのだ。さらに、17年7月にはなんと「テロ」まで発生した。バルセロナで観光していたイギリス人を乗せたバスを突然、覆面の4人組が襲撃。タイヤを刃物で切り裂いて逃走したが、その際、窓にスプレーでこのような「犯行声明」を残したという。
「観光業は地域を殺す」
実はスペインは、「観光立国」の成功モデルとされ、日本もお手本としてきた国である。バルセロナ・オリンピックを機に、観光を基幹産業と位置づけ、サグラダ・ファミリアなどの観光資源の整備やプロモーションを積極的に行い、外国人観光客を右肩上がりで増やした。国連世界観光機関の18年データによると、スペインには8180万人もの外国人観光客が訪れ、フランスに次ぐ世界第2位の「集客力」を見せている。
そんな成功モデルで「テロ」が起きるほど住民の不満が高まっている現実は、外国人観光客を多く迎え入れれば入れるほど、地域経済が潤って社会は良くなっていくというストーリーがすべて「幻想」だったことを証明している。
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