「観光公害」はガマンの限界 舞妓が被害届の京都、“おもてなし奴隷化”する王子…
インバウンドで嬉しくない悲鳴! 名勝地はガマンの限界という「観光公害」(1/2)
束の間の休みに、「日常」の我が家を離れ、名勝地に「非日常」を求める。だが、今の日本で行楽気分を味わうのは至難の業である。押し寄せた外国人観光客が溢れ返って、どこに行っても日常と変わらない喧噪が待ち構えているからだ。「観光公害」は深刻である。(以下は「週刊新潮」2019年8月8日号掲載時点の情報です)
***
速報「娘はフェイク情報を信じて拒食症で死んだ」「同級生が違法薬物にハマり行方不明に」 豪「SNS禁止法」の深刻過ぎる背景
速報「ウンチでも食ってろ!と写真を添付し…」 兵庫県知事選、斎藤元彦氏の対抗馬らが受けた暴言、いやがらせの数々
日本人の「京都離れ」が進んでいる。京都市観光協会等の市内主要ホテル52軒を対象とした調査では、2018年の外国人宿泊者数が前年から5・3%アップの123万人と増えているのに対し、日本人宿泊者は206万人と前年から9・4%減少。背景にあるのは常軌を逸した混雑だ。
それを象徴するのが、市バスの「麻痺」である。これまで観光の足として利用されてきたものの、外国人観光客が押しかけたことで運行ダイヤが乱れ、SNSには「京都駅出るのに20分以上かかる」「いつも30分の場所へ行くのに1時間半かかるとかザラ」と不満の声が溢れている。
事実、京都観光総合調査(17年)では、日本人観光客の46%というほぼ半数が京都観光で「残念なことがあった」と回答。その中では、「人が多い、混雑」(17・1%)が最も多く、「人が多くて、ゆっくり楽しめない」「バスがいつも満員で混雑していて乗れないことがある」と続く。「そうだ京都、行こう」というCMを見て、思いたったが吉日と古都を目指したのも今は昔、もはやかの地は、日本人にとって気軽に遊びに行ける場所ではなくなっているのだ。
だが、観光ができないくらいならばまだマシなのかもしれない。そこで暮らす住民たちは混雑どころの話ではない「観光公害」に頭を悩ましているのだ。京都の飲食店では、箸や食器を持ち去られる「窃盗」の被害が多発している。住宅街では、ゴミのポイ捨てはもちろん、風光明媚な風景をバックにした自撮りスポット探しで、私有地に勝手に入ってくるという「不法侵入」も珍しくない。
また外国人観光客らが多く訪れる祇園でははしゃぎすぎた外国人が、町家の格子戸を破壊するなど「器物損壊」も報告されているほか、通りを歩く舞妓が、なんと盗撮のターゲットにされるなどのストーカー被害まで発生しているのだ。
「深夜に帰宅する舞妓さんを自宅の前までつけ回したり、舞妓さんの着物の袖を引っ張って破いたり。4、5年ほど前から外国人観光客が急増し、迷惑行為もぎょうさんあるため、観光客にはもう来てほしないいうのが本音です」
と、祇園町南側地区協議会の太田磯一幹事が呆れ顔で激怒する。
「着物を破られた舞妓さんは警察に被害届を出しましたけど、加害者が特定される頃には帰国してもうてて泣き寝入りですわ。今では、ここにある飲食店は外国人観光客を出入り禁止にしています。特に中国・韓国のアジア系観光客のマナーが酷く、10人で喫茶店に入ってきてもコーヒーを3杯しか頼まへんかったり、テーブルの上で子どものオムツを替えはったり、持参したキムチを勝手に並べ出したり……。風情で売っている町ですから、外国人観光客にゾロゾロされては台なし。商売の妨げですわ」
一部の外国人観光客には、舞妓とはさながらテーマパークの園内で客を楽しませるキャラクターのようなものと誤解されているのかもしれない。
このような「観光公害」は京都だけの問題ではない。例えば、京都と並び外国人観光客が訪れる世界遺産・富士山を水源とする忍野八海(おしのはっかい)。神秘的な雰囲気からパワースポットとしても人気のあるこの八つの湧水池の「汚染」が問題となっている。原因は、外国人観光客が投げ込むコインだ。願いを祈りながら池へ投げ入れると幸福になれるというローマの観光スポット「トレビの泉」のように思われているのである。
ただ、あちらは市街地の噴水で、こちらは自然の泉。しかも天然記念物である。管理をする忍野村では看板などでコイントス禁止を呼びかけるものの被害は後をたたないという。ちなみに、数カ月に1度、潜水士が泉の底に溜まったコインを回収するのだが、その費用に住民の血税が投入されていることは言うまでもない。
中国で人気ドラマの舞台となったことから、多くの中国人観光客が訪れる北海道・美瑛(びえい)でも住民が苦しめられている。美しい丘陵地の風景の中で「自撮り」をする観光客が次々と私有地へ侵入し、畑の農作物を踏み荒らしているのだ。16年2月、個性的な佇まいから観光客の人気を集めていた大きなポプラの木、通称「哲学の木」が所有者の手によって切り倒されたが、これもインスタ映えを狙って無断で侵入してくる観光客の蛮行に堪えかねたからだと言われている。
地元農家の大西智貴さんが困惑する。
「私が驚いたのは、勝手に畑に入ってきて、ウェディングドレス、タキシード姿で結婚記念写真を撮っていたことです。見た感じ、外国人観光客でしょうね。美瑛にはまだ入ってきていないジャガイモの病害虫が、外国人観光客の靴に付着して畑に運び込まれてしまうことを最も恐れています」
[1/3ページ]