八戸・家族4人無理心中 家族を道連れにした父の“忌まわしい過去”【平成の怪事件簿】

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 令和の時代を迎えても、無理心中事件は後を絶たない。事件について報じられるとき、その動機について言及されることはあっても、加害者のパーソナリティに踏み込んだ情報は意外と少ない。そんな中にあって、12年前に起きた本事件には、怪事件と称するにふさわしい“前日譚”がある。(福田ますみ ノンフィクション・ライター)

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 若い父と母が実の赤ん坊を虐待死させ、思春期の息子や娘が父を襲い、妻が夫を撲殺し、大黒柱である父親が一家心中を図る。悲惨な家庭内殺人がマスコミで報じられない日はなく、この事件が起きた当初も、「またか」と思った向きが多かったのではあるまいか。

 ところが、その結末の奇っ怪さと、前後に起きた不可解な事件、そして、過去の衝撃的な事実があぶり出されるに及んで、当初、無理心中と思われた事件は、にわかに猟奇的な色彩を帯びていった。
 
 2007(平成19)年6月28日午後4時20分頃、岩手県久慈署の捜査員は、同県一戸町の県道脇の駐車場に、目指す車が止まっていることを確認した。職務質問しようと窓ガラスをノックすると、運転席の男性は一度は免許証を提示するそぶりを見せたが、何を思ったか、突然窓を閉めて車をバックさせ、後ろに止まっていた捜査車両に衝突。
 
 直後に男性は、カッターナイフを自分の首に突き立てた。驚いた捜査員が慌てて窓を壊そうとしたが、男性は首から血を流しながらアクセルを力いっぱい踏み込み、車ごと、崖から10メートル下に転落した。男性は救出されたが、搬送先の一戸病院で同5時24分、死亡した。
 
 死因は、首を切ったことによる失血死で、車の運転席付近には大量の血痕が付着していた。
 
 この男性の車が発見される約5時間半前の午前11時頃、男性が自殺を図った一戸町の現場から40キロ離れた青森県八戸市のあるアパートの一室には、凄惨な光景が広がっていた。歯科衛生士の久田奈津美さん(46歳、仮名=以下同)と長男の中学2年生・直人君(13歳)、二男の小学5年生・進君(10歳)、三男の小学1年生・渉君(6歳)の一家4人が死亡しているのを親類が発見したのだ。
 
 二男・進君には首に切り傷があり、他の3人には首に絞められたあとがあったことから、八戸署は殺人事件として捜査を始めた。死亡推定時刻は、前日27日の午後8時20分頃から28日未明とみられる。
 
 奈津美さんと渉君は寝室で、直人君と進君は子供部屋で、それぞれ布団の上に倒れていた。奈津美さんと直人君、渉君には抵抗したあとがなかったが、唯一、進君の手には抵抗した際にできる傷があったことから、進君以外は就寝中に襲われた可能性が高いとみられている。
 
 4人が変わり果てた姿で見つかった時、奈津美さんの夫で、子どちたちの父親の秀雄(43歳)の所在がわからず、警察は、秀雄が何らかの事情を知っているものと見てその行方を必死に追っていた。そして冒頭で記したように、捜査員が一戸町で秀雄の乗った車を発見した直後、秀雄は自殺してしまったのである。
 
 アパートの室内には、血のついた秀雄の服や包丁が残されており、どちらも二男の血液と一致、包丁の柄からは秀雄の掌紋が検出された。外部から侵入した形跡がないことから、八戸署は、秀雄が4人を殺害したと断定した。
 
 事件は当初、大きな驚きをもって伝えられた。

「お父さんは優しくて、お母さんは明るく、見本にしたいような仲睦まじい家族だったのに……」

「久田さんのような家族って憧れるよねって、友人ともよく話していたのですが」

 一家を知る近所の住民は口を揃えて、家族仲の良さを強調し、今回の惨劇に茫然として-た。
 
 秀雄は、大型船を港内で牽引するタグボートの航海士、妻の奈津美さんは、自宅近くの歯科医院で20年以上前から歯科衛生士として働いていた。2人とも子煩悩で、秀雄は、子どもたちの通う小学校のPTA副会長を務め、町内の行事にも家族そろって参加していた。

「秀雄さんは控えめで温和。子どもを叱る時も優しく諭すように語りかけていた。奈津美さんも、家族写真をいつもバッグに入れて持ち歩いていて、知人に見せては自慢していた。長男の直人君は中学の卓球部に所属。二男の進君の夢は『世界一の料理人』。三男の渉君はいつも明るく友達に『おはよう』と声をかけていた」(一家の知人)

 一見、幸せいっぱいの家族。だが秀雄には実は、普段の生活からは窺い知れない血塗られた過去があった。

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