中日、3人のタイトルホルダーそれぞれの事情 ロドリゲスはメジャー復帰の皮肉

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「竜虎同盟」

 SNSで突如「竜虎同盟」なる言葉がトレンドワードになったのは、9月30日の阪神戦(甲子園)だった。

 中日の先発は、最優秀防御率のタイトル争いで1位のジョンソン(広島)の2.59を僅差の2.63で追う大野雄。9月14日の同一カードでは、ノーヒットノーランを達成し、前年0勝の投手では史上4人目の珍記録として話題になったばかり。

 この日も相性の良い虎打線を相手に、逆転タイトル奪取をかけて、4回1死までパーフェクトに抑え込んだ。そして、この時点で防御率は2.58となり、ジョンソンを上回ったことから、目標を達成し降板。「個人記録を獲るためにわがままを許してもらい、感謝しています。まさか自分が獲れるとは思っていなかった」と初タイトル獲得の喜びに浸った。

 この降板は、スタンドの虎党からも大喝采を受けた。タイトルを祝福するというよりも、この試合に勝てば、奇跡の6連勝で広島を抜いて3位に浮上し、大逆転でCS出場権を獲得する阪神にとっても、“天敵”の降板は思わず拍手したくなる快事だったのだ。

 2番手として三ツ間卓也がマウンドに上がったが、直後、北條史也に初安打となる左前安打を許すと、四球で1死一、二塁とピンチを広げ、大山悠輔に中前先制タイムリーを献上。さらに2つの暴投で2点を追加され、中日は0対3と完封負け。結果的に大野雄のタイトルと引き換えに、阪神の逆転CS進出をアシストすることになった。

 これに対し、前述のとおり、SNSユーザーの間で「竜虎同盟」なる造語が生まれたが、広島の終盤のもたつきやバティスタのドーピング問題もあってか、広島ファンも含めて批判的な声は意外と少なかった。

 阪神戦での2試合連続無安打投球に代表されるように、左のエースとして復活をはたし、11勝の柳裕也に次いでチーム2位の9勝を挙げた大野雄。2020年は、CS進出とタイトルの両獲りといきたいものだ。

 最後は来日2年目の今季64試合に登板し、防御率1.64、44ホールドポイントで最優秀中継ぎ投手に輝いた最速159キロ左腕・ロドリゲス。9月19日の巨人戦(ナゴヤドーム)では、8回に3者連続見逃し三振の快投を演じ、14試合連続無失点の3勝目。チームを4位に浮上させ、残り7試合の時点で逆転CS出場へ望みをつないだ。
だが、この大活躍で、メジャーを含めた他球団の評価も高まり、レンジャーズへの移籍となったのだから、中日にとっては、皮肉にもタイトル獲得がアダとなった形だ。

 日本シリーズでソフトバンクに4タテを食い、救援陣補強を急務とする巨人がマネーゲームも辞さない動きを見せ、強力なセットアッパー不在のオリックスも参戦に意欲を見せるなど、国内の複数球団に加え、メジャー各球団も興味を示し、国内外の激しい争奪戦になった。

 もちろん、2020年に躍進を期す中日にとっても、ロドリゲスは必要不可欠な戦力だった。9月に年俸の大幅アップと複数年契約提示などを条件に残留要請を行った。ロドリゲス自身も10月1日の帰国時に「自分としては(中日に)戻りたい気持ちはある」とコメントしていたが、保留者名簿提出期限の11月30日を前にした同25日、獲得を目指していた巨人側からメジャー復帰の情報が洩れ、ついに中日も獲得断念に至ったという経緯がある。

 これにより、2年目を迎える与田剛監督のチーム構想も、ロドリゲスの代役探しで大幅に軌道修正を強いられる羽目に。個人タイトル獲得は、所属球団やファンにとって必ずしも喜ばしいことばかりではないという教訓を残した。

久保田龍雄(くぼた・たつお)
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新刊は電子書籍「プロ野球B級ニュース事件簿2019」上・下巻(野球文明叢書)

週刊新潮WEB取材班編集

2020年1月2日掲載

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