熊谷男女4人殺傷事件 16歳少女の「やっちゃえ!」が生んだ地獄【平成の怪事件簿】
「やくざをなめてんのか」
カオリと尾形、そして少年Aは、さっそく尾形の車に乗り込んで、鈴木さんのアパートに向かった。途中、尾形は自分のゲーム喫茶に立ち寄り、包丁1本を持ち出している。
午後1時、アパートについたところで尾形はカオリに確認する。「本当にやっちゃって大丈夫なん?」「大丈夫だよ。やっちゃって」と、再びカオリは言う。
最初、鈴木さんは自室の202号室に不在だった。そこでカオリは、「もしかしたら隣の部屋にいるかもしれない」と尾形に教える。そのアパートは、鈴木さんの勤務する飲食店が借り上げているアパートで、住人はみな店の従業員たちだった。
205号室(A子さん方)に行くと、そこに鈴木さんがいた。ちょうど、同僚のA子さんに出勤用の背広のズボンを縫い繕ってもらっているところで、下着姿だった。この姿を見て、カオリはこんなふうに思ったと供述している。
「こいつ絶対、この女とセックスしてたよ。ついこないだ私を犯そうとしときながら、今度は別の女かよ。キモ過ぎ。許せねえ。やっぱ、殺されても当然だよ、こんな奴は」
尾形は202号室に鈴木さんを連行、一緒にいたA子さんも同様に部屋に連れ込んだ。
ここから、地獄絵が始まった。
「お前、俺の女とやろうとしただろう。やくざをなめてんのか」
尾形は怒号しつつ、鈴木さんの頭を蹴りつける。鈴木さんは「すみません」と謝罪したが、カオリと肉体関係を持とうとしたことを否定したことから、尾形はさらに激昂。屈み込んだ鈴木さんの背中に、尾形は包丁を何度か突き刺した。さらに、うめきながら床に倒れこんだ鈴木さんの前方に回りこみ、「ううう、じゃねえよ」と怒鳴りながら、腹部を数回突き刺した。
鈴木さんは、刺された傷口から血液を噴出させながら、手足を激しく動かし、もだえ苦しんでいた。尾形は側にあった布団を、その鈴木さんの上半身に掛け、「うるせえな。こいつしぶてえな。まだ死なねえ」と言いながら、布団の上から頭部を踏みつける。
この間、カオリは同じ部屋の中で、放置していた自分の衣類などを片付けていた。さらに、尾形に頼まれ、倒れこんで布団を掛けられた、絶命寸前の鈴木さんの頭部を踏みつけた。また、尾形が握ってしまったパイプハンガーの指紋をふき取ったりしていた。このほか、1人で205号室に戻り、A子さんの手帳に挟んであった3万円を窃盗したりもした。
血なまぐさい殺人現場で、カオリの態度は、まったく平然としたものだった。
暴力の連鎖
この惨劇が拡大してしまったのは、たまたま飲食店の店長が、出勤してこない鈴木さんを心配して、同じアパートの106号室に住む従業員のB子さんに電話をして、202号室の様子を見に行くように頼んだことがきっかけである。
こうして、殺人が行われている部屋をのぞいたB子さん、さらにB子さんの部屋にいたB子さんの友人のC子さんも、「殺人現場を見ただろう」という理由だけで拉致され、秩父山中を車で連れまわされたあげく、尾形に次々と殺傷されることになったのだ。
女性たちを拉致する際、尾形はカオリにこう尋ねている。
「こんなにいっぱい知られちゃったら、ただじゃ済ませられないよな。目撃者が多すぎるよな。絶対こいつら言いそうだから、どうしようか。みんなやっちゃおうか」
カオリはそれに対して、「うん、やるしかないでしょ」と煽り立て、賛同した。
尾形はまず、秩父市内の美の山公園第2駐車場の公衆便所で、C子さんの頸部にタオルを巻きつけて絞り上げ、背部めがけて包丁を振り下ろし、全治6週間の傷害を負わせた。
さらに、美の山公園観光道路脇でB子さんを降ろし、同じく頸部にタオルを巻きつけて絞り上げ、背部を3回突き刺してから、斜面に蹴落とした。B子さんは窒息によって死亡。このときカオリは、斜面に落ちたB子さんが痙繁し息絶えたのを確認して、冷静に尾形に報告している。カオリはこれらの殺傷の間、車の中にいて、煙草を吸いながら、残りの女性たちが逃げないように見張りをしていた。
その後、A子さんは冒頭で説明したように、熊谷市内に連行されたあと、物置の内部で瞬間接着剤を鼻口部に塗布され、頸部にビニールロープを巻きつけられ、包丁で何度も突き刺された。彼女が自力で物置から這い出し、通りかかった男性に助け出されたのは、ほとんど奇跡と言えるものだった。
事件翌日、カオリは熊谷市内の夜の町を俳御し、窃盗した金でショッピングを楽しんだ。逮捕され身柄を拘束されてからも、事件の重大性を理解せず、検察官の取調べに対して、「今一番したいことは?」と問われ、「ファミレスとかゲーセンに行って、他の客を見て、あいつは変だとか言って、笑いたい」と答えたという。
さらに殺害された鈴木さんに対しても、「あいつが私を犯そうとして殺されたのだから、悪いとは思っていません」と言い放った。
だが公判が始まる頃になると、自分のしたことの罪の重さに気付き、次第に自分が巻き起こしてしまったことを反省するようになったという。
被害者のA子さんは言う。
「でも公判を通して、あの子は、まったく反省しているように見えませんでした。法廷では、供述を翻して、“見張りなんかしていない”“(尾形が)殺すとは思わなかった”と言っていたんですから。実際に、私を逃がすチャンスはいくらでもあったのに、逃がそうとしなかった。それどころか、腹を裂かれて苦しんでいる鈴木さんの頭を、布団の上から“こんな感じでいいの?”というふうに、平然と踏みつけていたんですよ。一緒にいた少年の方が、気持ち悪くなって、部屋になかなか入って来られないというのに。あの子は、ちょっと、普通じゃないんです」
公判中、カオリからA子さんの実家に謝罪文が送られてきたという。内容は、弁護士に書かされたような通り一遍のもので、「まったく心がこもっていない謝罪文だった」という。
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