辛口コラムニストが選ぶ年間「ベスト&ワーストドラマ」 同時1位の“究極の作品”は……
「いだてん」を褒める
アナ:一方、大河ドラマに批判的な林さんが「いだてん」を評価されるとは、ちょっと意外でした。
林:いや、今回もさんざん言ってきたけれど、カネ、知恵、時間をさんざん注ぎ込んだドラマってのは本当に少なくて、でも、「いだてん」は例外的にそういう作品だったんだよ。大河ドラマという枠内に限ってみただけでも、ここ数年、いや、ここ10年でこれだけゴージャスなつくりはありません。たいていの大河は、カネはジャブジャブでも知恵はさっぱりだから。
アナ:なるほど。「いだてん」もまた、戦前の幻の東京五輪と戦後に実現した東京五輪、アスリートたちと5代目・古今亭志ん生というように、2つの要素が入り交じる凝った構成でした。林さん、「やすらぎの刻」にせよ「いだてん」にせよ、そういうのがお好きなんですね。
林:そういうのがお好きな方が少ないから、「いだてん」は大河史上最高レベルの大コケになったわけだし、「刻」の視聴率も「郷」のときほどじゃないらしいって話になるわけだけれど、確かに「いだてん」の場合、クドカン(宮藤官九郎)の脚本は大河向け、つまりは全国津々浦々の爺ちゃん婆ちゃん向けとしては凝りすぎで、本来は制作側が交通整理してやるべきだったとは思うね。志ん生のパートは切り捨てたほうが、まだわかりやすくはなったかもしれない。もったいないけど。
アナ:もったいない、ですか。やはり評価が高いですね、「いだてん」への。
林:実のところ大河「いだてん」に限らず、NHKのドラマには最近、「お!」と思う作品が多くて、2019年も「トクサツガガガ」(1〜3月・金曜・夜10時)とか「ゾンビが来たから人生見つめ直した件」(1〜3月・土曜・夜11時30分)とか「これは経費で落ちません!」(7〜9月・金曜・夜10時)とか、楽しませてもらいました。 ただね……。
アナ:ただ?
林:ドゥルルルルルルルルルルルルルッ!
アナ:おお!
林:2019年、全ドラマ通してのワースト1は……「いだてん」!
アナ:ワーストもあったんですね。しかも「いだてん」がベスト&ワースト、両方ですか。いったい、どういうわけで?
林:ドラマとしての出来はベストだとして、でも、作品の作られ方、制作のありようが最低・最悪のワーストでした。
アナ:それはまた、どういうわけで?
林:1940年のボツになった東京五輪や64年に盛り上がった東京五輪を「プロジェクトⅩ」的に素晴らしいモノとして讃えることで、2020年の東京五輪も何か立派なモノのように見せかけようっていう企画の意図に反吐が出ます。トーキョー2020なんて、招致から会場づくりから人繰りから競技の運営からグッダグダのグッズグズのドッロドロなのにさ。
アナ:過去の東京オリンピックを素晴らしいモノとして讃えるという点では「いだてん」はよくできたドラマだったけれど、その根元にある制作意図が気に入らない、と。
林:そのとおり。最近、近所の子供たちが寄り集まっちゃ唄ってる「パプリカ」って歌だって、誰も頼んでないのにNHKが2020応援ソングなんて枠つくってダラダラダラダラ垂れ流してるでしょ? 全国の受信契約者のみなさまの中には、東京五輪の招致だ開催だに反対で、応援なんてできませんって人だって山ほどいるのに、なに好き勝手なことやってんだよ、という話。
アナ:あの歌をめぐる不愉快さと「いだてん」をめぐる不愉快さは同じということですね。
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