宮坂学(東京都副知事・ヤフー元会長)【佐藤優の頂上対決/我々はどう生き残るか】
技術が仕事を再定義する
佐藤 実際、都庁に入ってみてどんな印象を持たれましたか?
宮坂 日本の行政は、デジタル化が遅いと言われますが、それにはやはり理由があります。東京の道路や水道はきちんと整備されていますが、それは、例えば道路なら、その分野の2400人中、技術者が1500人もいるからです。でも情報通信技術(ICT)には100人しかいない。これじゃ、やりますといくら言ってもできません。「やる」というのは、人と予算を入れることです。それを知事に説明したら、すぐにICT部隊を作ってくれました。
佐藤 早速10月にデジタル人材を募集していましたね。
宮坂 世界の主要都市には、デジタル専門部隊が千人はいます。職員の1%以上です。でも東京は0・3%です。だから2021年度の採用からは、職種の中に土木や建築などに加えてICTも設けます。
佐藤 その部隊はどう動くんですか。
宮坂 都には局が20ほどあります。そのすべてに、何か一つはデジタルを使って、行政インフラや行政サービスを変えてもらおうと思っています。やっぱり20局それぞれが自発的自律的にやらないとダメで、それをデジタル部隊がサポートするような形にできればいいと考えています。都は、韓国とそう変わらないGDP規模の大組織ですから、横から入ってきた人間がトップダウンでやってもほとんど変わらないと思うんです。
佐藤 どう変わるのか楽しみです。
宮坂 やっぱりインターネットの発明は超巨大変化で、この30年ほどはこれに乗った企業や国はすごく伸びたし、乗り損ねたところは停滞しました。ブラウザを発明したマーク・アンドリーセンという天才投資家がいるのですが、「ソフトウェアが世界を食べつくす」という論文を2012年に書きました。その通り、ソフトウェアでアマゾンは書店を飲み込み、アップルは音楽業界を飲み込んだ。世界は今ソフトウェア産業が席巻していますが、それはつまりソフトウェアによって産業が再定義されたということです。ただこれからの30年はまた別で、AIやデータによって再定義されていくのかなと思いますが。
佐藤 非常に興味深い。ただ別の見方をすると、こうしたテクノロジーが人間にどのような影響を与えるかは、たぶん50年、100年経たないとわからないと思いますよ。しかしこの流れは止まらない。
宮坂 ええ。これからAIや新しいテクノロジーで職業が変わっていく流れは止められない。8千万人の仕事がなくなるけれど、1・3億人の仕事が生まれる。ネットだけで5千万人の仕事ができると言われていますが、ほとんどの職業で学び直しが必要になってきます。その時に何が起きるのか。産業革命を振り返ってみようと言う人がいます。あの時、工場がたくさんできて雇用が生まれたけれども、その過渡期のストレスで、さまざまな労働運動が生まれ、共産主義が誕生していく。それは300年近く引きずったわけです。だから、今回の変化についても過小評価しないほうがいいと言う。
佐藤 その視点は面白いですね。
宮坂 巨視的に見れば、新しい技術を覚えてそれを生かせばいいのですけど、そんなに簡単にできる人ばかりではない。当然、そこにストレスが生まれてきます。だからその反作用は、100年単位で残るっていうこともあるかもしれない。そこはちゃんと見ていきたいですね。
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