梅宮、高倉、菅原・・・ 東映「ヤクザ映画」スター秘話 本物のヤクザと親しくなる理由

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 梅宮辰夫さんが12月12日に慢性腎不全で逝った。享年81だった。菅原文太さんも2014年に他界し(享年81)、松方弘樹さんも2017年に鬼籍に入る(享年74)など、東映ヤクザ映画の黄金期を築いた俳優は数少なくなった。作り手側の一人である中島貞夫監督(85)が、愛すべき俳優たちの横顔と東映ヤクザ映画の時代を振り返る。

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 中島貞夫監督が、まず梅宮辰夫さんについて振り返る。

「辰ちゃんはネアカ。印象深いのは彼が最初にガンになった時のことです。辰ちゃんは『監督さぁ、俺、ガンになっちゃったよ』と屈託なく言うんですよ。まだガンは治らない病気と思われていたころですから、驚きましたね。まるで人ごとのように話していました」

 梅宮さんが睾丸ガンを患った1974年のことだ。このガンに始まり、梅宮さんは計6回、ガンを患ったが、それらを全て克服した。「病は気から」とよく言うが、落ち込まなかったことが良かったのかも知れない。

「ネアカの辰ちゃんがいるだけで、その場に明るくなる。だから、刑務所モノなどを撮る時にはありがたかった。画面から暗さがなくなりますから」(同・中島監督)

 中島監督は梅宮さんを重用しており、最初のガンになった1974年にも「脱獄広島殺人囚」で、囚人の一人・末永勇次役を任せた。梅宮さんは豪胆で陽気な末永を名演しており、ガンを患っていた時期とはとても思えない。

 また、スターになると「こんな小さな役はイヤだ」と言ったり、あるいは「この場面ではこうしたい」と主張したりする俳優が珍しくないが、梅宮さんは違った。

「辰ちゃんが役について、どうのこうの言うのを聞いたことがない」と中島監督は振り返る。ネアカなだけでなく、大らかな人だった。

「お坊ちゃんですからね」(同・中島監督)

 梅宮さんの父親は内科医。小学4年から中学3年までは茨城県水戸市内で過ごし、県内屈指のエリート校の茨城大付属愛宕小・中学校(現同大付属小・中学校)で学んだ。評論家の立花隆氏(79)は同中陸上部の2年後輩で、親交があった。

 一方、梅宮さんの4歳年下で兄弟のように親しかった松方弘樹さんは2世俳優。父は時代劇界のスター・近衛十四郎さんで、母もやはり時代劇で奥方役などを演じていた水川八重子さんだ。

 妻のクラウディアさん、娘でタレントのアンナ(47)に精一杯の愛情を注ぎ込んだ梅宮さんとは対照的に、松方さんは艶福家のイメージが強いが……。

「女好きなどと言っているうちに、本気になったところがあるんじゃないかなぁ」(同・中島監督)

 実は俳優の間では「真面目な人」として知られている。女性関係にしても、2度の結婚と1度の事実婚を繰り返し、ほかに婚外子もいるが、手当たり次第に女性に手を出したわけではない。特に最後のパートナーなった事実婚の相手・山本万里子さん(45)のことは大切にしていた。松方さんは「嫁が若いから長生きせにゃ」と、口癖のように言っていた。

 松方さんは1987年に62歳で亡くなった鶴田浩二さんのことを「鶴兄ぃ」と呼び、慕っていた。俳優の世界もサラリーマン社会と同じで、派閥めいたものがあるが、松方さんは鶴田派の筆頭と目されていた。

 一方で松方さんは、2014年に83歳で他界した高倉健さんとはあまり折り合いが良くなかったようだ。秘密主義で寡黙な健さんと、ざっくばらんで誰とでもすぐ打ち解ける松方さんでは性格が正反対なので、そのせいもあったのだろう。

 中島監督は前出「脱獄広島殺人囚」に、松方さんを主人公の脱獄囚・植田正之役で起用した。

「この作品をやったころは弘樹ちゃんにとって一番苦しい時期。1969年に時代劇のスターだった市川雷蔵さんが亡くなったので、彼は後釜として大映の作品に出ることになったが、時代劇自体の製作がほとんどなくなってしまった」(中島監督)

 大映作品への出演は所属していた東映の指示。従うしかないが、やがては大映全体が傾き始め、製作本数が激減してしまう。松方さんはもどかしい立場になってしまった。

 1971年に東映に復帰したものの、再スタートとなった松方さんの待遇は微妙だったようだ。故・深作欣二監督による5部作の「仁義なき戦い」シリーズ(1973~74年)に松方さんは3回出演(1作・坂井鉄也役、4作「頂上作戦」藤田正一役、5作「完結編」市岡輝吉役)したが、3回とも殺されてしまい、レギュラー的な存在ではなかったのは、当時の立場のためでもあるらしい。

 だが、前出「脱獄広島殺人囚」と、続く「暴動島根刑務所」(75年)「強盗放火殺人囚」(同)の主演作がいずれも大ヒットし、松方さんはスターの座を確立する。これらの作品は「松方弘樹東映脱獄3部作」と呼ばれ、松方さんの金字塔だ。

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