スローガン通り? 矢野「阪神」の躍進を支えた梅野隆太郎と近本光司の「オレがヤル」
「ぶち破れ! オレがヤル」をスローガンに最下位脱出とV奪還を目指した就任1年目の阪神・矢野耀大監督だったが、シーズン終盤の“奇跡の6連勝”で3位に滑り込み、逆転CS進出を実現。ファイナルステージで巨人に敗れたものの、2年目の2020年は、2005年以来15年ぶりのV奪回も期待される。そんな“新生”タイガースの躍進に大きな役割をはたすとみられる2人をクローズアップ。彼らの2019年における印象的なプレーを振り返ってみた。
まずは、矢野監督の現役時代と同じ捕手の梅野隆太郎。2018年終盤に右手首を疲労骨折し、年明け後も故障との闘いが続くなか、19年も開幕早々、4月2日の巨人戦(東京ドーム)で走塁の際に左足薬指を骨折してしまう。だが、相次ぐアクシデントにもめげず、2試合休んだだけで強行出場を続け、同9日のDeNA戦(甲子園)で史上69人目、通算74度目のサイクル安打を達成した。そして、この快挙は、まったくの想定外とも言うべき3つの幸運が重なって“プレゼント”されたものだった。
最初の幸運は、0対0の2回2死一、二塁、右前に飛球を打ち上げた直後に訪れる。ライト・ソトが前進し、ダイレクトキャッチを試みたが、グラブの先をかすめるようにポトリ。ボールが転々とする間に2者が生還し、梅野も三塁へ。当初はエラーが記録されたが、3回の守備終了後、三塁打に訂正された。この2つ目の幸運(記録訂正)がサイクルへの大きな布石となる。
4回2死一塁の第2打席で右前安打を記録した梅野は、2点を追う8回の第4打席では左中間に1点差に迫るソロ本塁打を放ち、あと二塁打が出ればサイクル達成となった。そして、打者一巡して2死一、二塁で回ってきた第5打席、梅野は見事右中間を破るが、「(サイクルリーチに)気がつかなかった」と迷わず二塁ベースを蹴って三塁へ。三塁打になれば、当然記録はオジャンになる。
ところが、ここで梅野にとって、天の配剤とも言うべき3つ目の幸運がもたらされる。一塁走者・ナバーロが本塁タッチアウトでスリーアウトチェンジになってしまったのだ。この結果、梅野の記録は二塁打となり、見事サイクル安打が達成された。ソトの拙守に始まり、エラーが三塁打に変わり、とどめはナバーロの本塁憤死で三塁打が二塁打になるという「想定外の快挙」は、けがにも負けず休まずに出場しつづけた“不屈の男”への“野球の神様”からのプレゼントだったのかもしれない。
何も知らずにベンチに戻った梅野は「ベンチがざわついている」と異変に気づき、初めて事態を理解。慌てて女性スタッフから祝福の花束を受け取り、「メチャクチャうれしい。まさか自分がサイクルを達成するなんて思っていなかった」と破顔一笑した。2019年は打率2割6分6厘、9本塁打、59打点ながら、CSファイナルステージ進出を決めた10月7日のDeNA戦(横浜)で、1対1の8回に値千金の決勝犠飛を放つなど、数字以上の存在感を示した。
[1/2ページ]