政治家はマシ、ライターの方が変人…(中川淳一郎)

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 この前、国会議員の秘書と喋ったのですが、彼の発言はインパクト大でした。

「私が言うのもナンですが、政治家って頭ぶっ飛んだヘンな人しかなれませんよ。だって街頭に立って自分の名前を連呼して、主張したいことを拡声器使って叫び続けるってどう考えても変人じゃないですか。私なんて、自分の名前を公の場で呼ばれることさえイヤですけど、彼らはむしろ積極的に拡散する」

 その時、「確かにそうですね。オレも自分の名前を街中で言い続けるのは恥ずかしいです」とは答えたものの、家に帰ると「オレも変人じゃねーかよ!」と思ってしまいました。

 貧乏性なので、オファーを頂いたお仕事を受け続けているうちに、本業の編集業務に加えて、月に40本ほど原稿を書く状態になってしまいました。なぜか女性向け恋愛情報サイト「AM(アム)」で、男の視点からの恋愛成功術を書いているのですが、同サイトの編集者からのネタ振りがとにかく毎度赤裸々なんですよ。

「今まで出会った中で一番エロかった女について書いてください」

「女から言われてドキッとした言葉を教えてください」

 なんてものから、「年収1千万円達成方法」なんてお題まで来る。「一番エロかった女」の話題だったら、当然自分自身の恥ずかし過ぎる反応も書かなくてはいけません。

 AMに限らず他のメディアでも、自分が「職場のいじめ」のようなものを受けた話も書くし、大切な人に対して不義理をした痛恨の過去なんかも書きます。

 いくら政治家でも、さすがにここまでは言いません。本誌(「週刊新潮」)スクープで、30年前にパンツ泥棒で逮捕された事実が発覚した「パンツ大臣」こと福井選挙区の高木毅・元復興大臣だって、選挙中の演説でパンツのことを言うわけがない。

 実際に聞いたことはないけれど、一般的な演説を考えれば、「私、高木毅は福井県の発展のために必死に働く男です! 北陸新幹線の福井延伸にも私は努力をしてきた! 安定的なエネルギー供給についても私は取り組んできた! そんな私、高木毅を、ぜひ国政に再び送り込んでください! 高木毅を何卒お願いします!」なんてことを言うでしょう。

 間違っても、「人間誰もが高潔なわけがない! 時にはミスを犯す! 私もかつて女性宅のパンツを盗むという破廉恥行為をしてしまいました! あの時はムラムラしていたんです!」なんてことは言わない。

 しかし、私は毎日のようにムラムラした話やら、好きな女性のタイプ、年収が60万円しかなかった時代の生活スタイル、酒を飲み過ぎて犯した大失態なんかを公の場に晒し続けています。それを考えたらライターの方がよっぽど変人じゃねーかよ! 政治家はまだマシだ、と思うに至ったわけです。

 さらに、ネットニュースのコメント欄には「このライターは文章がヘタクソ」などの罵詈雑言が溢れる。ライターなんて仕事は、変人の上にマゾでなくてはできないとんでもない職業です。

 かといって「天気の良い日が続いて素晴らしいですね」みたいな文章を書いても価値はない。えぇ、依頼があったらなんでも書く変人であり続けようと改めて決意しました。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

週刊新潮 2019年12月26日号掲載

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