セブンでは年間23億個売れる「コンビニおにぎり」40年史 トレンドは原点回帰

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 コンビニで、“不動の売れ筋王”と言われている商品をご存知だろうか。セブン‐イレブンでは年間22億7000個売れる、おにぎりである。1978年、同社が開発した、海苔とごはんを別々のフィルムに包み、食べる前に海苔を巻く、「手巻おにぎり」の販売が開始されてから、コンビニおにぎりの歴史が始まった。

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 コンビニ大手3社が1号店をオープンしたのは、ほぼ同じ時期だ。セブン‐イレブンは1974年5月(東京・豊洲)、ローソンは75年6月(大阪・豊中市)、ファミリーマートは73年9月、実験店を埼玉県狭山市に出した。

 セブン‐イレブンは、4年後に「手巻おにぎり」の販売を開始した。

「当時、おにぎりや弁当は常温で棚に置いていましたから、衛生面を考えてのことでしょうね。海苔をごはんに付着させると、水分を吸った海苔が劣化する可能性があった。それから、海苔の食感をパリパリにさせたかった。お母さんの握ったおにぎりとは違う、まったく新しい食感のおにぎりが誕生したわけです。これまでのおにぎりとは異なり、スナック感覚で食べるようになりました」

 と解説するのは、12月に『コンビニおいしい進化史』(平凡社新書)を出版したコンビニジャーナリストの吉岡秀子氏。本書では、コンビニのおにぎりやサンドイッチ、麺類、総菜などの進化の歴史を綴っている。

おにぎりでV字回復

 その後、1983年にセブン‐イレブンが発売した「手巻おにぎり シーチキンマヨネーズ」が大ヒット。手巻おにぎりが市民権を得る。90年代になると、海苔をごはんに直接巻く「直巻おにぎりが出て、おこわや混ぜごはんなど、種類も増えた。2000年代は、高級化、本格化路線に進む。米や海苔の産地にこだわり、具材に趣向を凝らすようになったという。

「2002年、三菱商事出身の新浪剛史氏(現・サントリーホールディングス社長)が43歳でローソンの社長に就任しました。彼は着任初の朝礼で、『みんなに愛されるおにぎりを作ってほしい』と社員に訴えました。新浪社長は、おにぎりをコンビニの顔にしたいと思っていたのです」(同)

 新浪社長の肝いりで、米飯担当だった伊藤一人氏(現・理事執行役員)をリーダーとする「I  LOVE ローソンおにぎりプロジェクト」が始動する。

「社内約20人、社外約20人の40人ほどのメンバーが、当時ブームだったおにぎり専門店に足を運び、どうやって握るのか見せてもらったそうです。名人が握るおにぎりは、ふわっとしています。それを再現したのです。また、大きな具を入れるために、具をごはんとごはんで挟むサンドイッチ製法を開発。そのため工場の機械をすべて取り換えた。米は新潟コシヒカリ、塩は瀬戸備前にがり塩とこだわり、そうしてできたおにぎりが“おにぎり屋”です。三角形に握った白いごはんのてっぺんに、焼さけが顔をだす『おにぎり屋 焼さけハラミ』は、店頭に並べると瞬く間に売れたそうです。これで当時経営不振だったローソンがV字回復するきっかけができたのです」(同)

 セブン‐イレブンは、人が握ったようなおにぎりにこだわった。

「セブン‐イレブンのあるおにぎり担当者は、ごはんの粒と粒の間の空気量を計測し、ふっくら感を出すようにしていました。さらに、2003年には、おにぎりを大改革。おにぎり専門店の名人の握り方を徹底的に研究し、新しいマシンを開発しています。今までのおにぎり製造機は、ごはんを上からプレスして成形していました。新マシンは、ごはんをくるくると転がして丸めるのです。その後に塩をふりかけるので、人が握る手順を忠実に再現しています。このおにぎりを役員試食会に出した時、鈴木敏文名誉顧問が思わず、『これはおにぎりの革命だ』と唸ったため、そのまま“おにぎり革命”と命名されました」(同)

 ファミリーマートのおにぎりは、「愛情むすび」として知られる。

「セブンやローソンなど、革新的なおにぎりの波に乗り遅れまいと、2004年に“愛情むすび”を発売しています。こちらも手作りに近いふっくら製法を開発。海苔は高級な有明海産のものを使用しています。しかも、手巻タイプ、直巻タイプ、炊き込み・混ぜ込み、具が大きい、逸品むすびと、価格も品質も多様化させて、おにぎりを大幅にリニューアルしました」(同)

 今やコンビニおにぎりは、おいしいのが当たり前の時代になった。

「そんな中、業界に激震が走ったのが、2018年10月にローソンが発売した『悪魔のおにぎり』です。海苔がない、混ぜごはん系なのに、一時期ダントツの1位で売れていた『ツナマヨ』を抜き、爆発的に売れました。このヒットで、海苔がなくても売れることが証明されました。今の若い人たちに話を聞くと、黒々とした海苔のおにぎりを敬遠する傾向にあるようです。海苔は歯につくし、インスタ映えしないというのです。黒いおにぎりよりも、緑とか黄色、茶色のおにぎりの方がかわいいそうです」(同)

 健康志向のおにぎりも登場した。

「ファミマは2017年から食物繊維が豊富なスーパー大麦入りのおむすびを発売。女性だけでなく、中高年男性にも人気が出て、累計で1億食を突破しています(19年8月現在 弁当・寿司含む)。セブンは18年から、『もち麦もっちり!』シリーズや『五穀ごはんむすびシリーズ』を展開しています。ローソンも14年からナチュラルローソンでもち麦入りおにぎりを発売していましたが、現在、通常のローソンでも発売するようになりました。ところが、令和の時代になると、様々な製造技術が進歩するにつれて、“原点回帰”の波が押し寄せています。ファミマは、今年の夏に手巻おむすびをよりふっくらおいしく刷新しました。セブンも、おにぎりがコンビニ売上王であるためには、基本商品のブラッシュアップが鍵と言っています。珍しい具や味で一時的に人気がでても、消費者は結局、梅、さけ、昆布といった大定番に戻ってくるそうです」(同)

 次はどんなおにぎりが登場するのだろうか。

週刊新潮WEB取材班

2019年12月24日掲載

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