「暴れる小学生」「叱責に耐えられない若手社員」急増の裏に「ほめる子育て」

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暴れる小学生が急増中

 だが、榎本氏の次の指摘は、もっと怖い。

「文科省の18年度の調査を見ると、教育機関における児童・生徒の暴力行為の発生件数は7万2940件で、内訳は小学校が3万6536件、中学校が2万9320件、高校が7084件。これまでは中学校がダントツで、11年までは小学校での発生件数は高校よりはるかに少なかったのに、いまや高校の4、5倍です。子供の衝動のコントロール力が、いかに低下しているかがわかると思います」

 そして、こう続ける。

「昨今、教師も体罰やハラスメントに敏感で、学校できつく叱ることが難しくなりました。だから、学生からは“学校に遅刻しても怒られなかったけど、バイトで遅刻したら怒られたからキレて辞めた”なんて話も耳にします。先生が厳しく指導できない以上、子供を躾けて社会性を身につけさせられるのは親しかいない。それなのに、法で体罰を禁止したら、親が萎縮して、子供に厳しく対峙できなくなります。我慢できず、思い通りにならないとキレて暴れる、あるいはひどく落ち込む子供が、ますます増えてしまうと思います」

 厚労省の指針案も法改正による体罰の禁止も、躾けの名を借りた体罰、ひいては虐待を防ぐためのものだったはずである。だが、叱られずに育ち忍耐力に欠けた子供たちが親になり、子供という思い通りにならない存在を前にしたとき、つい暴力に走ってしまう危険性を否定できるだろうか。できないとすれば、これほど皮肉な話もあるまい。

 では、お上はなにをすべきか。子育てに一家言ある俳優の梅沢富美男氏が言う。

「児童虐待は昔もありましたが、周囲がいい意味で干渉しあっていたので、子供が死んでしまうような痛ましい事件は、未然に防げたことが多かったように思います。いまは隣にだれが住んでいるのかわからないことも多く、おかしいと感じても、児童相談所への通報が難しい面もあると思います。だから児相に、家庭に立ち入れる権限を与えたり、威圧的、暴力的な親の前で動じない職員を増やしたりすることが、一番の課題ではないでしょうか」

 評論家の大宅映子さんも同様の必要性を説きつつ、

「かわいいわが子を殴り殺したり、溺死させたりする親が、罰則なしの法律ができたからといって、虐待をやめるとは思えません」

 と言い、厚労省の指針案がいかに暗愚かを説く。

「他人のものを盗むとか友達を殴るとか、大人がやれば刑法で罪に問われるようなことを子供がしたら、親が激怒するのは当然ですし、手がちょっと出ることもあると思います。程度を超えた体罰は問題ですが、“早く支度しなさい”と言わずに“出かける時間だね。そろそろこの服に着替えよう”と声をかけるだなんて、そんな些細なことまでお上が大人を指導するのは、気分が悪いですね。猫なで声で親になにか言われたら、私が子供なら反発します。父は踏んづけられても自分で起き上がれるように育てる“雑草教育”が大切だと言っていました。親が助けてあげられるうちに、子供は一度踏んづけられる経験をしておいたほうがいい、というのが持論でした」

 そして、こう締める。

「それぞれの親子関係にある文脈を顧みず、一律に厳しさを排除するような指針をお上が振りかざせば、子供はますますだれにも厳しくされないまま、社会の荒波に放り出されるようになるのではないでしょうか」

 荒波に揉まれても、そのたびに体勢を立て直せる大人を増やすこと。ひいては、それが虐待防止にもつながることは、火を見るよりも明らかなはずだが。

週刊新潮 2019年12月19日号掲載

特集「家庭の躾けにまでお上が介入 親すら子どもを叩けなくなる厚労省『体罰』指針の暗愚」より

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