「誤嚥性肺炎」をゼロにした介護施設の、たった数十秒でできるケア術

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毎日数十秒で…

「体調不良のお年寄りを診る時はまず誤嚥性肺炎を疑え、というくらい、起こりやすく、危険な病気です。高齢者の肺炎の8割は誤嚥性とも言われている」

 とは、原宿リハビリテーション病院の稲川利光・筆頭副院長。

「しかし恐ろしい病気であるのと同時に、ケア次第で防ぐことが出来る病気でもある。それはぜひ知っていただきたいと思います」

 実際、施設全体で対策に取り組み、患者を激減させることに成功した例もあるのだ。

 その一つが、富山市にある特別養護老人ホーム「梨雲苑」である。

「当院では2011年から、誤嚥予防の『口腔ケア』に取り組み始めました」

 と言うのは、施設長を務める、坪内奈津子さんである。

「グループの特養の入居者はおよそ130名。ケアを始める前はそのうち毎年、10名に満たない程度が誤嚥性肺炎で入院し、その後亡くなった方もいました。そこでその対策を課題として捉え、歯科衛生士の方に口腔ケアを学んだ。11年に業務提携を結び、職員への指導と定期健診をお願いしたところ、2年後の13年には入院をゼロにすることが出来ました。今に至るまで、それは続いています」

 その方法は三つにわかれる。

〇「簡単口腔ケア週2回法」

〇「口腔内臓器つぼマッサージ法」

〇「手技で行う咽頭ケアと排痰」

 これらのうちで気になるのは「口腔内臓器つぼマッサージ法」である。

 坪内施設長が言う。

「これは毎日行っています。食事が飲み込みにくい、という人は食前に、そうでもないという人は食後に行う。これで飲み込みにくかった方は食事を食べやすくなるというわけです」

 被介護者に口を開いてもらい、口内にある複数のつぼを、手袋をしジェルを塗った指でマッサージ。また、つぼだけでなく、唇をもんだり、頬を横に広げたりすることで、嚥下機能の向上と回復を促せるという。また、唾液が出やすくなるため、口内が滑らかになるとか。

「これは毎日数十秒で終わります。一人の口腔ケアに何分もかけてしまうと、業務に支障が出るのはもちろん、入居者さんも疲れてしまいますが、これくらいならお互い無理なく簡単に出来る。続けて効果が出ている要因だと思います」(同)

 確かにそれほどの重荷とも言えない作業である。

「誤嚥性肺炎予防といっても、このように、日常生活の中に組み込めるものはたくさんあるのです」

 と、介護予防トレーナーの久野秀隆氏も言う。

「まだ元気な人であれば、私が勧めているのは、『考える人体操』に『カメレオン体操』。前者は、両手の親指をあごの下につけ、ロダンの『考える人』のように前かがみになり、手の中に10回ほど息を吐く。後者は、カメレオンが遠くに飛ぶ虫を捕まえるように、ベロを長く伸ばす。これを10回ほど繰り返すのです。食前に行うことで口や喉の準備体操になる。“いただきます”をするのと同様、習慣化させてほしいですね」

(2)へ続く

週刊新潮 2019年12月19日号掲載

特集「家庭でも活かせる! 『誤嚥性肺炎ゼロ』の介護施設は何が違うのか」より

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