新浪剛史(サントリーホールディングス株式会社代表取締役社長)【佐藤優の頂上対決/我々はどう生き残るか】
出戻り歓迎
佐藤 こうして変わりつつあるサントリーには、どんな人材が欲しいですか。
新浪 私は新規に大学を卒業してくる人だけでなく、大学を出て、いろいろやってきた人も積極的に採用する必要があると考えています。
佐藤 例えば?
新浪 アフリカに行ってNGOやNPOにいましたとかね。何かにチャレンジしてきた人が欲しい。だから採用するのは、20代半ばでもいいし、後半でもかまわない。
佐藤 一括採用にはこだわらない?
新浪 はい。それと最初に就職した企業で終わりにするのではなくて、何年かして辞めてもいいし、出戻ってきてもいいと思っています。サントリーに入って嫌だと思ったら、他の企業に行けばいい。ただし、石の上にも三年、3年は我慢して欲しい。
佐藤 組織には人の能力を引き上げてくれる要素がありますからね。よく若い人から、入った会社がブラック企業じゃないか、と相談されます。表面上、研修や教育が厳しい会社とブラック企業は見分けがつきにくい。だから私はこうアドバイスするんです。5年、10年、15年と5年刻みで先輩を見て、一人も尊敬できる人がいなければ、それはブラック企業か、もしくはあなたと相性が合わない会社だから辞めた方がいい。でも一人でも尊敬できる人がいたら、簡単にブラック企業と決めつけない方がいい、と。
新浪 鍛えることとブラックな環境であることはまったく違う。私は、若いうちに修羅場を経験したほうがいいと思っています。苦労を厭わないことが大事で、いわゆるドブ板的なことは絶対に必要です。世の中の不条理を乗り越える胆力が身に付きます。
佐藤 そういう時にこそ力が付きますからね。
新浪 逆に入ってはいけないのは、エリートコースがあって、そこへ行く人に弾が当たらないようにしている会社です。最初から企画のスタッフになるような会社は絶対やめた方がいい。経営者、リーダーになっていくには人の心を動かしていかなきゃいけない。それには現場を知る必要があります。成功の舞台裏はすべてかっこ悪いんですよ。
佐藤 その通りです。
新浪 だから20~30代の間に、自分で腹を括って意思決定できる場面をどれだけ経験するかが重要です。大企業にはそういう場はないし、残念ながらサントリーもそうかもしれない。だから入社して出て行ってもいい。外に出たら、ネットワークを作ろうとか、もっと勉強しようと思いますしね。そして戻ってくる人がいてもいい。我々も出戻るに値する会社にしなければなりません。その意味では、学生も企業もインタラクティブ(双方向的)な関係を作っていかねばならない。
佐藤 あまり知られていないのですが、外務省は出戻りOKなんです。昔から一回は戻ってこられる。
新浪 そうなんですか。
佐藤 それと最初の10年くらいはキャリアもノンキャリもやることは一緒です。外務省という組織は、実力社会でしたね。結局、言葉ができないと何大学を出ていても関係ないですから。また在外公館では、日本の外務大臣がやってきてその国の首相を表敬訪問したいとなったら、大使でも参事官でも3等書記官でも、人脈を持っていて、約束を取り付けられる人が「できる人」です。
新浪 人脈がある人は強い。
佐藤 私はそんな仕事をしていましたから、7年も8年もモスクワに留め置かれた。その頃から私は変な役回りになって、やり過ぎてしまうんですけどね。でもどの集団でも中心的な役割を果たす人は2割くらいでしょう。そしてその2割の足を引っ張る人たちが必ず出てくる。そういうヤキモチが日本は強い。
新浪 ジェラシーがすごいのも日本の問題点です。平等意識が強いんですね。日本人はもともと農耕民族で、助け合いながら働いてきたから、みんなが平等という意識がある。問題はその平等が結果の平等にまで拡大されていることで、そこがグローバルとぶつかる。きちんとできる人を認めていけば、もっといい国になるんじゃないかなと思いますけどね。日本はチャンピオンでも、相当に高いレベルじゃないと拍手をもって迎えないでしょう。野球なら王貞治さんのレベルとか。
佐藤 そういう傾向はありますね。
新浪 俺はこれだけの結果を出したからと踏ん反り返っていると、ボコボコにやられる。だからそこにものすごく気を使うし、それは謙虚さとして良さはあるけれども、グローバル企業になった時、自己アピールと謙虚さをどう調整していくのかが課題になります。
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