新浪剛史(サントリーホールディングス株式会社代表取締役社長)【佐藤優の頂上対決/我々はどう生き残るか】

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 5年前、1兆6300億円という巨費を投じて米国の老舗バーボンメーカーを買収したサントリー。「利益三分主義」を掲げてきたこの日本的な会社は、グローバル化に際し、いかに自社を作り変えていったか。その根本にあるのは、日本ラグビー「ONE TEAM」の哲学だった。

佐藤 サントリーはジムビームやメーカーズマークで知られる米国のビーム社を買収して、一気にグローバル化しましたね。

新浪 2014年に買収しましたが、統合に5年ほどかかりました。1兆6300億円という巨額の買収は、それまでの日本の企業の歴史を見てもほとんど成功した例がないのですが、我々がそれを受け入れ、またビーム社の社員も受け入れてくれた。これは自分たちを変える覚悟がなかったら、できませんでしたね。

佐藤 大きな決断でした。

新浪 買収を決めたのは佐治信忠会長です。この買収は、世界に対する我々のプレゼンス(存在感)を高める切符を得ただけでなく、サントリーが変わるということでも大きなターニングポイントになった。私はむしろ後者の方が、将来のサントリーにとって重要な要素だと思っています。

佐藤 変わらねばならない危機感があったということですか。

新浪 このままでは、日本の企業は世界で戦っていけませんから。これからの企業は海外の人材をどんどん取り入れ、また女性についても同様で、異なった文化やものの考え方を受け入れて、ダイバーシティ(多様性)経営を進めていかなければなりません。

佐藤 外からの影響は重要です。

新浪 11月初旬までラグビーワールドカップがありましたね。リーチマイケル主将率いる日本チームが大活躍しました。私はサントリーの将来の理想の姿は、あの「ONE TEAM」だと思っているんです。根っこにあるのは日本のモノの考え方です。そして世界スタンダードを目指す、派手ではないけれども、しっかりしたチームワークがあり、コミュニティの助け合いの大切さがある。しかし同時に多様な外国出身選手が集まり、ダイバーシティが成立している。外国から来た選手があれだけいて、皆が日本を理解している。彼らは大変重要なメッセージを、日本発グローバル企業を目指すサントリーに明示してくれました。

佐藤 ラグビーチームのあり方は、正しい意味での「帝国」だと思います。帝国とは何かといったら、特定の民族で固まらないということです。ロシアはまさにそうで、ラシーアという言葉はロシア帝国を指しますが、それに対して民族の国家はルーシ、ルスキーは金髪碧眼のロシア人を表します。そしてロシヤーニンと言うと、ロシア帝国に忠誠を誓っている人のことで、アジア系でも中東系でもいいんですね。

新浪 それは面白い。

佐藤 だから漂流してロシアで女帝のエカテリーナ2世に拝謁した大黒屋光太夫が「あなたの国の臣民にしてください」と言えば、ロシア帝国の一員になることができた。

新浪 なるほど。私は日本ラグビーが予選を突破できたのは、運が良かったからとか、ホームだったからではなくて、多様な人材がまさに「ONE TEAM」、一つになったからだと思います。日本は、あれだけ外国人もいるチームを一つの目標に向かってまとめることができる国なんだ、と実感しましたね。

佐藤 間違いなくできますよ。

新浪 ええ。それには、Who are we? 我々は何者か? 我々の根本にある部分をきちんと理解しておかなければなりません。変わっていくには、まず自分たちが何者か知らなくてはならない。どこが世界と相容れないのか、どこが世界に先んじているのか、理解する必要があります。

佐藤 重要な問いかけですね。

新浪 日本が持つ発想や考え方で世界に通用するものはたくさんありますよ。例えばいま、世界中で環境問題とかサステイナブル(持続可能)な社会と言っていますね。これはアニミズムに端を発する日本の文化そのものでしょう。だから本来なら、もっと世界にアピールできるはずです。でも、これだけ資源もエネルギーもない国が工業化し、これまでCO2の排出を大きく抑えてきたことすら発信できていない。

佐藤 それには論理的な言葉が重要です。

新浪 おっしゃる通りです。

佐藤 ただ日本には、神道の伝統もあって「言挙げをせず」、すなわち言葉でやるのはダメなんだ、と考えているところがある。でもグローバルになったら、それでは通用しない。

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