日テレが新橋の「地ビール」を開発 ハクション大魔王とヤッターマンが懐かしい

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「おやじの聖地」と呼ばれる東京・新橋の地ビールが初めて出来る。作るのは酒造メーカーや酒問屋、居酒屋チェーンかと思いきや、5年連続視聴率3冠王の日本テレビグループ。一体、どうして?

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 東京・新橋が「おやじの聖地」「サラリーマンの街」と呼ばれ始めてからの歴史は意外と短く、1990年代以降。理由は大小のオフィスビルが群立する一方、1500店以上の飲食店がひしめき合っているためだ。

「それなのに新橋の名が付いたビールはありませんでした。酒そのものがないんです。焼酎を造ろうとする動きは過去にあったそうですが、最終的には実現しなかったそうです」と、語るのは日本テレビグループ・(株)日テレ7の前田淳氏。同社のオフィスは、新橋・汐留エリアの日テレタワー内にあり、社長の大関雅人氏らは日テレ出身。グループ内で商品事業を担っている。

 それにしても、いくら自分たちのオフィスのある新橋に地ビールがなかったとはいえ、どうして畑違いの日テレグループがそれを造るのか。映画や舞台なら分かったが……。

「日テレグループが、創業の地である千代田区二番町から新橋に移ったのは2003年ですが、地元により溶け込むために何か貢献したいと思い、2018年6年に地元の消防団に入ったんです。消防団で知り合った方たちと話すうち、地元の酒がないことを知りました。それなら自分たちで造り、新橋をより盛り上げようと考えたのです」(同・前田氏)

 社長の大関氏も「それはいい!」と即座に賛成。好調企業の機動力の良さ、瞬発力の高さが表れた。大関氏も「社屋移転から15年。そろそろ新橋のために役立ちたい」と考えていた矢先だった。 

 前田氏の消防団入りからいち早く、日テレ7が酒類販売業免許を取得。地ビール造りに向けて本格的に動き出した。

 もっとも、あくまで第一目的は地域貢献なので、すべては地元との協議の上で進めた。愛宕一之部連合町会の丸哲夫会長や、新橋駅日比谷口前にある大規模雑居ビル・ニュー新橋ビル商店連合会の長尾哲治会長らである。

 その結果、原材料のうち米は、福島県いわき市の「Iwaki Laiki」を使うことに。新橋のある港区といわき市は友好都市だ。さらにニュー新橋ビルには、いわき市の東京事務所が入っていることもあって、商店主らはいわき市の東日本大震災からの復興に心を砕き続けてきたのである。

もちろん、日テレ7側にも異論などあるはずがなかった。

「新橋の町興しに役立てそうなだけでなく、いわきの復興にも結びつけられるかもしれないのですから」(同・前田氏)

 ビール瓶に貼られるラベルの中心部には、同じく地元との協議の末、新橋のシンボルが描かれることになった。

「SLです」(同・前田氏)

 新橋駅日比谷口の駅前広場にあるC11形蒸気機関車だ。

 そのイラストを描くのは、今は日テレグループの一員であるタツノコプロ。老舗アニメ制作会社で、「ハクション大魔王」(1967年、フジテレビ)や「ヤッターマン(リメイク版)」(2008年、日テレ) 「タイムボカン24」(2016年、同)などを作った。

 ラベルにはSLのほかに、「ハクション大魔王」のキャラクターである、「それからオジサン」と「魔法のツボ」が描かれる。「ヤッターマン」の「おだてブタ」も。おやじ族には懐かしいに違いない。

 地ビールの名前も「新橋SLビール」とすることになった。既にネット上での予約(クラウドファンディング方式)が始まっており、いずれは新橋の酒販店で市販されたり、飲食店で提供されたりする予定だ。

 肝心のビールの味のほうはというと、イギリスで生まれたIPA(アイピーエー=インディア・ペールエール)系統。ホップが大量に使われ、その分、芳醇な香りと独特の苦みがある。香りが良く、飲み口がスッキリしているので、近年は若者や女性を中心に愛飲者が増えている。喉ごしを楽しむラガービールや生ビールとはまるで違う。

「ただ美味しいだけではなく、“記憶に残る味”にしたいと思いました」(前出・社長の大関氏)

 IPA系を基本とする「新橋SLビール」は、トロピカル系フルーツのような甘い香りで、アルコール分は7%とやや高め。やはり地元との協議の上で決定した。

 この味を量産するためのアドバイザーになったのはクラフトビール (小規模醸造所で造られる個性派ビール)の専門誌「TRANSPORTER」の田嶋伸浩代表。その助言により、醸造所は三重県の伊勢角屋麦酒に決まった。数々の国際大会で受賞したクラフトビールの老舗だ。

 畑違いのことなのに日テレグループが本格的にビールを造るとなると、この先、新たなビッグビジネスを目論んでいるのではないかと勘ぐりたくなるが、「いいえ。あくまで収益より地元への恩返し」と大関氏は強調する。「テレビマンの仕事は、モノ作りだけでなく、コトを起こすことでもありますから」(同・大関氏)

 視聴率競争、営業利益争いでトップを独走しているので余裕もあるのだろう。

 日テレグループでは、今年の年末の納会や新年パーティーで「新橋SLビール」を用意して全社で楽しむという。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
ライター、エディター。1990年、スポーツニッポン新聞社入社。芸能面などを取材・執筆(放送担当)。2010年退社。週刊誌契約記者を経て、2016年、毎日新聞出版社入社。「サンデー毎日」記者、編集次長を歴任し、2019年4月に退社し独立。

週刊新潮WEB取材班編集

2019年12月16日掲載

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