将来介護してくれる人に迷惑をかけたくない…「介護脱毛」隠れたブームの背景

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白髪になってからでは手遅れ!「介護と排泄」現場(2/2)

 高齢化が進む日本につきまとう「介護」の問題。わけても排泄の処理は、介護者/被介護者ともに負担が大きい。技術進化を遂げている介護用品を紹介した前回につづき、今回紹介するのは、排泄にともなうトラブルの“予防法”といえるものだ。

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「それが最近、話題になっている、介護脱毛です」

 と、さるベテラン看護師が言う。

 介護脱毛とは、その名の通り、将来、介護を受けることになった場合に備え、「下の毛」を脱毛することである。なぜ、「下の毛」の問題が重要なのか。

「排泄ケアを受けるお年寄りは、大抵、お粥やゼリーなど軟らかいものしか食べられません。そのため、便も軟らかいものしか出ないのです。軟らかい便は有形便に比べて、オムツの中で広がりやすく、毛に絡みやすいため、ケアも大変になります。また、便が直接皮膚に付着しやすくなるため、皮膚トラブルも起こりやすくなるのです」

 どういうことか。

「毛に便が付着してそのまま乾燥してしまうと、それを落とすには、かなり苦労が伴います。拭き残しがあるとそこから一気に雑菌が繁殖してしまうので、皮膚が荒れてしまったり、尿路感染症を引き起こしたりするリスクが格段に高くなります。特に女性の場合は尿道が短いため、尿路感染症になりやすい傾向にあります。免疫力が弱っている高齢者が尿路感染症になると高熱を出す可能性が高く、命の危機にも繋がってしまうのです」

 それを防ぐため、ひと昔前は、介護施設が入居者の下の毛を勝手に剃ってしまうなんてこともなくはなかった。人権意識の高まる今はそんなことはとても出来ないが、代わりに増えてきたのが、入居者自身がそれに備えて脱毛、というワケなのである。

「現場の感覚から言えば、アンダーヘアがある人の陰部を清潔に保つための苦労を10とすれば、脱毛している人のそれは2くらいとなる。もちろん、アンダーヘアが本来持っている、陰部の保護機能は失われますが、清潔さを保つという意味では、むしろ毛はない方が良い。施設や在宅の患者さんの中には、洗浄が行き届かず、毛の周囲に垢がこびりつき、苔が生えているように見えるケースもあります。毛がなければ、介護をする側の負担が減るのに加えて、介護される側も身体が健康に保たれますし、“少しでも迷惑をかけたくない”という多くの被介護者が持つ希望も叶い、心理的な負担もより少ないのではないでしょうか」

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