SNSで誘拐・監禁される少女たち 「裏アカ」で性的目的の成人男性に狙われる可能性大
埼玉で同種の事件、容疑者の父母は
自分がやっていることに後ろめたさ、罪の意識を十分に感じていたからこその振る舞いだったというわけだ。そんな中、季節外れではあるが雨後の筍のように、
〈中学生誘拐:SNSで「養ってあげる」埼玉の37歳、中学生誘拐容疑で逮捕〉(毎日新聞11月28日)
〈SNSで誘い出し中学生を自宅に 43歳会社員を誘拐容疑で逮捕〉(NHKニュース11月29日)
などと、同種の事件が報じられた。
埼玉の37歳は空き家再生を生業としており、妻と未就学の女の子があった。その一方で、ツイッターで家出を望む埼玉・兵庫の中学生女子2人とやりとりし、「勉強するなら養ってあげる」などと誘い出した。実際、2人のための家を借りてやり、勉強机を用意し、宅建の勉強をさせ、「自分の会社の従業員にしたかった」と捜査員に話している。
携帯も取り上げられず、日々の入浴も1日3食も保証された生活で、誘拐と言えば身代金が通り相場なのに、身元の明らかな「あしながおじさん」風にも映る。栃木で小6少女が味わった「携帯取り上げ、1日1食、風呂は2日に1度」に比べて真っ当な扱いで、いわゆる誘拐事件とも様相を異にしている。現場を訪ねると、容疑者の父母が主(少女たち)を失った家の撤収作業中。それは大家に言われてのことだが、母親当人にとって今回の件は青天の霹靂だったようで、
「そうですね、(女子が住んでいたことも)知らないですよ。(息子に)何か(おかしな点が)あったから、こうなったんじゃないですかね。(通常の誘拐とは)違うんですけど、世間はそう取ってくれてないんですよ! もういいんです。終わったんですから」
「裏アカ」女子高生は70%
他方、43歳会社員は東京・八王子在住。ツイッターに「部屋を貸してくれる人、いませんか」と投稿していた14歳少女と連絡を取り、「のんびりしてください」「ワンルームマンションなのでベッド1つなんです。なので、一緒に寝ることになりますが大丈夫ですか」などとメッセージを送って誘い出すことに成功している。少女は愛知・豊橋で祖母と同居しており、その祖母が行方不明届を提出、保護されるに至った。
これらを受け、世も末、すわ異常事態などと思われるムキにご紹介したいのが、情報セキュリティ会社「デジタルアーツ」が手掛ける〈未成年者の携帯電話・スマートフォン利用実態調査〉である。
2011年に始まり、既に12回を数える最新調査は今年4月、10~18歳の618人を対象に行われた。
何らかの携帯電話を持つ小学生のスマホ所有率は90・8%、中学生は95・6%。使用頻度の高いアプリは、ツイッター:小学生19・9%、中学生19・9%、高校生73・8%。LINE:小学生69・4%、中学生83・5%、高校生93・2%。YouTube:小学生60・2%、中学生75・2%、高校生93・2%。インスタグラム:小学生18・9%、中学生19・4%、高校生63・1%となっている。
表に出さない秘密の「裏アカウント」を持つ女子高校生は69・9%、女子中学生が41・7%。そこでは、「趣味、好きな芸能人・アーティスト、好きなもの・ことなどの情報」をやりとりしたり、「自分の考え方や悩み事」を投稿する割合が高い。リアルな友達に知られたくない本音を吐露するのに便利だからだ。
千葉大教育学部の藤川大祐教授によると、
「表向きの付き合いとは別に、そうした『裏アカ』で『家出』や『自殺』といったキーワードでつながるSNS上の人間関係を持っている者が少なくない。子どもたちは、そうした裏アカを通じ、見ず知らずでも優しい言葉をかけてくれる人間のもとに居場所を求めてしまう。特に、少女たちの場合は、性的な興味を目的にした成人男性に狙われるパターンが多いのです」
まさに伊藤容疑者の事件はそのケースに当たるのだが、先の調査に戻ると、その中で衝撃は、SNSなどのネットで知り合った人と「会った・会いたい」小学生は50・8%、中学生は44・8%、そして高校生が59・8%にのぼる点だ。女子高生に限ればそれは約70%に跳ね上がる。
衝撃と言ったが、そう評するのは実際のところ少数派で、未成年者にとって、SNSは出会いのツールとして極めて一般的ということになる。もはやニュースでもないのだ。
そして、「更に驚くべき」と敢えて言ってみるが、危機意識の欠如は深刻である。
ネット上のどういった事件で当事者になり得ると感じるかという質問に対し、「誘拐、拉致、乱暴、殺害」は小学生6・3%、中学生2・9%、高校生9・7%、「特にない」は44%。同じことを保護者に聞くと、それぞれ2・8%と47・9%だった。
この調査は、自殺志願者として悩みをツイッターに投げ込んで楽になろうと思ったら、強盗・強制性交殺人という悲劇に繋がってしまった「座間9遺体事件」(17年10月に発覚)以降に行われている。しかし、世間を震撼させたこの件が調査対象者に影響したかと言うとさにあらず。SNSで知り合った人とリアルで会わない方が不自然で、会ったからといって身の危険に晒されることはないだろう……そんな思いが未成年、そして彼らを子に持つ親からすらにじみ出て伝わってくる。
精神科医の樺沢紫苑氏はこんな指摘をする。
「お父さん、お母さんがスマホを始終眺めているのを子どもは見て育つわけです。子どもに“スマホを使ってはいけません”と言ったって、“じゃあ、お父さん、お母さんはどうなの?”となってしまう。説得力がなくなってしまっている。子どもだけではなく、大人もスマホに飲み込まれないリテラシーを持たなきゃいけない」
昔、親は子に「チョコをもらっても知らない人について行ってはいけません」と教えた。しかし、現代社会の日常は様変わり。そもそも親がリスクを感じていないのだから、「SNSで知り合った人について行ってはいけません」とは注意しないわけだ。
「心理学の用語に『ザイオンス効果』というものがあります。人は接触回数が多ければそれだけ、相手と仲良くなるということを意味します」(同)
SNSを通じてなら、1時間に1回でも相手とやり取りすることは難しくない。結果、仲良くなりやすいし、そうなれば楽しくなる。だからSNSにハマってしまう……そんな構図だ。一方、
「毎日、知り合いと会うのは難しいですよね。そして、カップルでさえ、二人で一緒にいながら別々にスマホを見ている風景に出くわすくらいです。スマホ、あるいはSNSは一度、口(手)にしたらなかなかやめることができない禁断の果実。その猛烈な常習性を世間はもっと認識すべきでしょう」(同)
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