ついに「中韓同盟」を唱え始めた文在寅政権 トランプ大統領は「韓国は北朝鮮側の国」と分類

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「民族の核」目指す反米左派

――結局、文在寅政権の目的は「中韓同盟」締結ですか?

鈴置:「中韓同盟」は隠れ蓑と思います。本音は「北朝鮮の核の傘」に入ることでしょう。文在寅政権の中枢は北朝鮮と手を組み、米軍を追い出そうとする人たちで占められています(『米韓同盟消滅』第1章第1節「米韓同盟を壊した米朝首脳会談」参照)。

 一方、北朝鮮は韓国に対し「北の核と南の経済力を結合し、民族を興そう」と呼び掛けています(『米韓同盟消滅』第1章第4節「『民族の核』に心躍らせる韓国人」参照)。

 だから、北朝鮮から核兵器を取り上げようと世界中が経済制裁を実施している時に、文在寅政権は制裁緩和を目指し動きまわっているのです。

 何とかして北朝鮮の核を温存すれば、同じ民族の韓国も潜在的核保有国になれるとの計算です。図表「朝鮮半島は誰の核の傘に入るのか」のシナリオIVを目指しているわけです。

米大使館へのデモを呼びかけた文正仁

――ではなぜ、「中国の核の傘」に頼るフリをするのですか?

鈴置:いくら北の核武装を応援したくても、そう露骨にはできません。水面下でカネを送らないか、米国は韓国を厳しく見張っています。そこで、とりあえずは「中韓同盟」をこと挙げすることで、米韓同盟の亀裂を拡大する作戦でしょう。

 文正仁特別補佐官は米大使館へのデモを呼びかけるなど、挑発に乗り出しています(「文在寅のせいで米国に見捨てられる 核武装しかないと言い始めた韓国の保守派」参照)。

 米韓同盟が消滅すれば、韓国は誰かの核の傘に入るしかありません。自前の核を持とうとする動きも出るでしょうが、容易ではない。北朝鮮と異なり貿易立国の韓国は、たぶん実施されるであろう経済制裁に耐えられないからです。

 となると、中国かロシアか北朝鮮の核に頼るしかなくなる。反北朝鮮の保守は反対するでしょうが、左派はもちろん普通の人も「民族の核」を選んでいく可能性が高い。

「北朝鮮の核を我がものとすれば、大国に従属してきた屈辱の歴史から脱することができる」と呼びかければ、けっこう多くの韓国人が賛同すると思います。中国も、中韓同盟結成とは行かずとも、米韓同盟を破壊できれば万々歳です。

「韓国は北朝鮮側」と見切ったトランプ

――こうした韓国人の心情を米国は分かっているのでしょうか?

鈴置:少なくともトランプ大統領は分かっていると思います。北朝鮮が非核化の約束を破棄する構えを見せました。これに対し12月8日、トランプ大統領はツイッターで牽制しました。以下はその一部です。

・it must denuclearize as promised. NATO, China, Russia, Japan, and the entire world is unified on this issue! (非核化の約束は守られねばならない。NATO、中国、ロシア、日本と全世界がこの問題では団結しているのだ!)

「団結している国」のリストに「韓国」はありませんでした。トランプ大統領の頭の中で、韓国はすっかり北朝鮮側の国に分類されているのです。

 米韓の政権が同時に、米韓同盟の消滅を前提に発言を始めた――。これを見落としてはなりません。今、日本は安全保障環境の激変を目前にしているのです。

鈴置高史(すずおき・たかぶみ)
韓国観察者。1954年(昭和29年)愛知県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。日本経済新聞社でソウル、香港特派員、経済解説部長などを歴任。95〜96年にハーバード大学国際問題研究所で研究員、2006年にイースト・ウエスト・センター(ハワイ)でジェファーソン・プログラム・フェローを務める。18年3月に退社。著書に『米韓同盟消滅』(新潮新書)、近未来小説『朝鮮半島201Z年』(日本経済新聞出版社)など。2002年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。

週刊新潮WEB取材班編集

2019年12月13日掲載

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