年俸25%減、挫折を味わう阪神「藤浪晋太郎」……“ノーコン”を直す方法があった!

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 阪神の藤浪晋太郎が12月6日に契約更改を行い、減額制限上限となる25%ダウンの6300万円でサインした。今季は1軍登板がわずか1試合で、プロ7年目で初の0勝に終わった。大阪桐蔭高では甲子園で春夏連覇を達成し、プロ入り後も3年連続2ケタ勝利を記録した藤浪だが、右肩痛や制球難などで近年は不振が続いている。今季も先発した試合では4回まで無失点に抑えたが、8四死球と不安定な投球が続き、5回途中1失点で降板となった。

 同世代で現在はメジャーリーガーの大谷翔平と並び称される存在だった右腕は、なぜ勝てなくなってしまったのか。現役時代は広島で先発、抑えとして22年間で148勝138セーブを記録し、現在はNHKなどで野球解説者を務める大野豊氏に聞いた。

 藤浪の制球難の要因として、イップスを指摘する声がある。イップスとは、心の葛藤により筋肉や脳細胞などに影響を及ぼす心理的症状で、スポーツの動作に支障をきたすこと。大野氏も「あれだけの素材で、あれだけのボールが投げられるピッチャーが、今のような状態になっているのは、精神的な問題が一番大きいと思う」と指摘する。

「自分の中では、いい形で、いいボールが投げられていると思っていても、ちょっとバランスを崩したり、ボールを離すタイミングが狂った時に、何かを思い出すというか、頭をよぎるのではないか。きっちり調整して、しっかり投げられる状態でマウンドに上がっても、そういう球が一球出てしまうと、乱れた気持ちが体に伝わってしまって、そこから修正できなくなってしまうのだと思う」

 2015年には広島との試合で、投手の黒田博樹が打席の際に胸元付近への投球を連投したことで、乱闘寸前の騒ぎになったことがあった。大野氏の指摘は、必ずしもこの時の出来事を指しているわけではないだろうが、確かに近年の藤浪の投球では、死球をきっかけに崩れるケースが目立っている。右打者へのいわゆる“抜け球”による死球は、技術面にも問題があると大野氏は続ける。

「彼の場合、投球フォームでテイクバックに入った時に、右手が体から大きく離れてしまう。そうなると、右手が上がったトップの状態の時に、上と下(半身)のタイミングを合わせることが難しくなる。体から離れている分、投げ急ぐと手が遅れることになるので、そうなると軸足でタメて待つか、体重移動を我慢することで、トップと下を合わせなければならない。それがしっかり合った時には、素晴らしいボールが投げられるが、少しでもズレてしまうと、引っ掛けたり、抜けるボールになってしまう」

 ピッチングの基本で言えば「理にかなっていない」投球フォームだと大野氏は指摘するが、長年、体に染み付いたフォームを修正することは難しく、またその必要もないと言う。

「好調時には、今のフォームでも安定していいボールを投げられたわけだから、ベストのタイミングを、彼自身がしっかり掴めているかどうかが重要になる。逆に言えば引っ掛けたり、抜けたボールを投げた時、トップのタイミングが遅かったとか、リリースポイントが少しズレただけなど、本人が理解できれば問題ない。それができるようになるには、自分の一番いい形を認識して、しっかりフォームを固めて軸を作る必要がある。その中で自分を強くして、技術面のコントロールだけでなく、心のコントロールもできるようになって自信を取り戻せば、精神的な問題も解消するのではないか」

 伝統があり、人気球団でもある阪神では、各方面から様々な声が入ってくる。大物OBの江夏豊氏は、2015年の春季キャンプで臨時コーチを務めて以降、たびたび提言や、時には苦言も発し、一部マスコミが指導を受けた藤浪の態度に関してネガティブな記事を書いたこともあった。江夏氏だけでなく、不振に苦しむ藤浪に対して、多くのOBや評論家がアドバイスを送り、今秋のキャンプでは中日で通算219勝を記録した山本昌臨時コーチの指導も受けた。

現役時代に、チームメイトだった江夏氏にプロとしての心構えから教わったと言う大野氏は、周囲との関係について助言する。

「江夏さんにはキャッチボールの重要性を教わった。キャッチボールをしっかりやれば、ブルペンにつながる。ブルペンでやったことは試合につながる。これにはみんな関連性があるということだった。藤浪の場合は、アドバイスしてくれる人が多いと思うが、自分の中で選定することが大事。無駄だと思うものは取り入れなくてもいい。プロとして頑固さも必要だし、信念も持たなければいけないが、素直な心も持たなければいけない。今の投球内容や自分の立場など、ダメ出しをされたり、嫌なことを言われると面白くないのは理解できるが、最初から聞く耳持たないような姿勢を見せるのはよくない。彼がこの先、成長したいと思うなら、どんな話でも一応は聞いてみて、ある程度は素直に聞く気持ちや心も必要だと思う。とにかく素材や能力は申し分ない投手なので、立ち直ってまた活躍することを期待したい」

 阪神のエースから球界を代表する存在となり、現在は転落した感もある藤浪だが、まだ25歳と普通の選手なら若手の部類に入る年齢だ。挫折を味わった早熟の右腕は、苦難を乗り越えてもうひと回り大きな存在の投手になることができるのか。まだまだ終わった存在、と見るのは早過ぎる。

週刊新潮WEB取材班

2019年12月12日掲載

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