神田松之丞、伯山襲名会見で春風亭昇太は「この人は売れないと思ったんだけどな……」
質疑応答の名場面
ここから記者からの質問を受け付けることになるのだが、松之丞の半生、講談への熱い思いは、11月に文庫化したばかりの「絶滅危惧種、講談師を生きる」(神田松之丞著・新潮文庫)に譲るとして、その名場面を再現しよう。
質問:師匠から見て松之丞の評価は?
松鯉:小中学校を対象の学校公演に行ったんですけど、あたしはあまり小学生や中学生向きの講釈が得意じゃないんですよ。まあ、大人向きも得意じゃないんですけどね。小学校行ったらね、あんな小さい子たちが、この子の講談にドーンドーンと笑うんですよ。一緒に行った噺家より笑わせている。すごいなあと思ってね。そういう教え方した覚えがないんだけど。あれ以来、この子に頭が上がらなくなりました。師匠がこんなことを言ってはまずいかもしれないけど、天才的なところがあるんじゃないかと思いますね。これからはもっと才が磨かれていくと思いますんで、ひとつご期待ください。
質問:入門時のエピソードは?
松鯉:本(「絶滅危惧種、講談師を生きる」)にも書いちゃったから言ってもいいか。最初にうちに来たときにね、喫茶店で会おうということで、行ったんですよ。喫茶店にだって、席の上下ってあるんです。この子は一番奥の席にどーんと座ったものだから、あたしは入り口に近い席に座らざるを得なかった。それでね、どうせ弟子になるんだから、今から教えといたほうがいいと思って、礼儀を教えた覚えがありますね。ことほどさように、もう手を取り、足を取り、日常生活は全部、矯正して指導して参りました。
昇太:先生、昔はバカだったということでいいですか? 今はだいぶよくなったと。
松鯉:よくなった!
松之丞:エー、こんな質問しないでいただけますかね。
質問:落語芸術協会において、今回の抜擢昇進は28年ぶりで、昇太師匠以来。落語家から見た講談師松之丞の魅力とは? 抜擢昇進で披露目中のアドバイスとは?
昇太:そうですね、松之丞くんがね、寄席の世界に入ってきたときに顔を見て、「この人は売れないな」と思ったんです。こんなにパッとしてない顔の人が、今テレビに出てるのはおかしい! だから松之丞くんがテレビに出ていると、僕はおかしくてしょうがない。周りの人がみんな華やかな顔をしていて、彼だけがこういう顔をしている。だけど、パッとした人ばかりの中で、こういう人が逆に光っているのがいい。彼にはウデがあるので、バラエティ番組のトークもいけるし、もちろん講釈も間違いない。こういった方がテレビ番組に出て、新しいお客さんをつかんで、講釈や寄席の世界にお客さんを引っ張ってもらっているというのは協会としても宝だし、ありがたいと思っています。(中略)披露目はですね、だいたい何やっても怒られるんです。何をやっても、何か言う人は必ずいるんです。気にしないで、失敗するのを前提に伸び伸びやってくれれば、と思っています。
質問:真打ちになる前にやり残したことはあるか。
松之丞:二つ目でやり残したことって、生意気なようですが、ないですね。やり尽くしたってくらいに、自分なりに一所懸命やったつもりです。今回、抜擢と言われますが、落語家と講談師はジャンルが違うので、昇太師匠のように純粋な抜擢ではなくて、「ちょっと僕お先に……」っていうくらいのトーンなんです。師匠が77歳で、人間国宝にもなられて、お元気で、こういう記者会見にも並んでいただいて……師匠がお元気なうちに披露目ができる。これは弟子としては最高に嬉しいことなので、あと3年後、4年後、果たして師匠がお元気なのか。お元気だとは思うんですが……、感謝しかないと思っています。
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