神田松之丞、伯山襲名会見で春風亭昇太は「この人は売れないと思ったんだけどな……」
昇太覚醒
――会場から、ややウケの笑い声を聞いた昇太が、突如として覚醒する。やにわに立ち上がり、目の前に置かれたペットボトルのラベルを剥がし始める。
昇太:こういうもの、取っておかないと。
柳橋:そうやって点数稼がなくたって……。
昇太:大事なんだってば、こういうことが!
柳橋:そか、記者会見だからね。写っちゃうとまずいから。
昇太:(会場に向け)最初からやり直しましょうか?
――会見場に笑いが巻き起こり、ホッとした様子の昇太。続いて松之丞の師匠である、人間国宝・神田松鯉の口上だ。
松鯉:本日はお運びいただきまして誠にありがとうございます。おかげさまで、松之丞が来年2月の中席から真打ちに昇進させていただくことになりました。手前どもの家へ来て、丸12年でございます。ま、一所懸命修行して、真打ちになる前に花が開いちゃった感じの子でございますけれども、これからもっと大きな大輪の花になってもらいたいと思っております。講談界も久方ぶりに、活気が出てきたようでございます。手前どもが入門した約50年前は沈滞の底でございまして、私どもは“講談決死隊”と呼ばれておりました。あれから講談界もだいぶ人数が増えて参りまして、今、松之丞改め6代目伯山の影響で、若い人たちが陸続として入門してきているようでございます。講談界が落語の世界のように全盛を期して花盛りという時代がいつ来るのかなと思っておりましたが、これから本当の春が来る兆しが見えております。あたしはもう間に合わないと思いますけれど、講談界が全盛になるように、ひとつ、この子にも頑張ってもらいたい。芸協の会長、副会長をはじめ、大勢の方々にもご支援をいただきたいのでございます。そういうわけで今後ともよろしくお願いをいたします。ありがとうございました。
――ドスのきいた声で、講談界の行く末を案じる人間国宝を前にして、さすがに昇太もかき回すわけにはいかない。そしていよいよ松之丞改め伯山である。
松之丞:エー、本日はお足元の悪い中、アー、お集まりいただきましてありがとうございます。もうとにかく、昇太会長、柳橋副会長、のみならず、うちの師匠に感謝を申し上げたいと思っております。考えたら私の持っているネタの9割以上は、師匠の神田松鯉から受け継いだもので、神田松鯉がいなければ、私は今ここにいないわけなので、まず師匠に心からお礼を申し上げたいな、と……。
――松之丞らしからぬ、殊勝な言葉であるが、エンジンも暖まってきたようだ。
松之丞:(伯山を)来年継ぐということは、オリンピックイヤーでもありますし、または(歌舞伎の市川)團十郎襲名もあります。正直、團十郎襲名・オリンピックイヤーの、あまりにも圧倒的な力には勝てそうもないので、非常に寒いんですけれど、2月にスタートダッシュを切れるのはめでたいなと思っております。44年ぶりですか、伯山が復活するというのは師匠のおかげでありますし、他の方々の御仁力もあったと思っております。寄席文字の方からね、「伯山という名前を自分が生きているうちに書くことができたのは、すごく嬉しいですよ」と言っていただきました。また他協会ですが落語協会の(柳家)三三師匠も、「ボクが生きているうちに伯山が復活するとは思わなかった」と言っていただいて、いろんなところに影響力のある名前なのかなと思っております。今日、「グッとラック!」(TBS)を見ておりましたら、立川志らく師匠が、「伯山という名前は、長嶋茂雄の名前を継ぐようなもんだ」というね、ちょっと言っている意味がよくわからなかったです。おそらく、伯山にも、長嶋茂雄にも、志らく師匠はそんなに思い入れがないのだろうと。とにかく、いろんな方が言っていただける名前を継ぐことができて本当に感謝しております。今日は本当にありがとうございました。
――ここから記者からの質疑応答タイムに。だが、なかなか挙手がない。
昇太:(質問が)ないと終わっちゃいます。誰か無理にでもお願いします。
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