精神障害者手帳取得アラフォー女性が「障害者限定公務員試験」を受験して疑問に感じたこと
職歴も学歴も聞かれない理由
よく晴れた日、電車を乗り継いで、試験会場に向かう。大学の構内を借り切って行われるので、かなり会場は広い。私と同じように試験を受ける人がたくさんやってきて、久しぶりにドキドキした。
車椅子の人や杖をついている人を何人か見かけた。それ以外の人は私と同じ精神障害者か、四肢に障害のない人なのだろう。指定された教室に行き、席に着く。空いている席もちらほら見かけた。
試験官の説明を聞いた後、しばらくしてプリントが配られた。試験を受けるのは何年振りだろう。白い上質紙をめくり、問題に目を通す。試験の内容は学力を見るものというより、総合的な知識、常識を見るものに近かった。いわゆる一般教養というものだと思う。
数学は苦手なので、うまく解けなかったが、英語の長文読解は、問題になっているお話を日本語で読んだことがあるので、なんとか解けた。社会や理科は自信がないが、マークシートなので、とりあえず埋めた。国語の問題は難なく解けた。
そして、最後に、小論文があった。私は一応、作家として文章を書いているので、他の受験生よりもはるかに有利だ。文章をきちんと練り、漢字も間違えることなく書き留めることができた。事前に勉強はしていなかったが、それなりの手応えはあった。
試験が終わって数週間経った。試験の結果は残念ながら不合格だった。まあ、そんなものか、という感想しか出てこない。精神障害者になってから、良い出来事というのはほとんどなかった。私は公務員を諦めて、いつも通りパートに出かけた。最低賃金に近い金額で7年近く働いている。障害年金を受給しながらの暮らしは余裕があるとはいえない。
勤め先のNPO法人で講演会を行った時に、以前お世話になった上司に会った。この業界で長く働いている生き字引のような人だ。
「この間、中央省庁の障害者雇用の試験を受けたけど、落ちちゃいましたよ」
私がうなだれながら呟く。
「小林さんは、働ける障害者だから大丈夫だと思ったけどね。職歴もあるし」
元上司がそう答える。
「でも、職歴を書くところ、ないんですよ! 学歴もないし。職歴がかけたら、他の人より良い印象が与えられたと思うんですけど」
私が声を荒らげて答えると、元上司は驚いた顔をして私を眺めた。
「え! 職歴も、学歴も書かないの? おかしくない?」
元上司も素っ頓狂な声を上げる」
「本当にないんです。住所とか名前とかと、障害者手帳だけ」
私は元上司の顔を見ながら話す。
「うーん、それはあれだな。やっぱり奴らは障害者が働けると思ってないんだよ。とりあえず、数だけ揃えればいいと思ってるから、職歴も何も聞かないんだろうな。戦力として雇いたいならそこは聞くのが当たり前だろ」
元上司は穿った考え方をしているが、あながち間違っているとも言えない。一般企業では必ず職歴や学歴を書く。それは自分の会社で働けるかどうかを見極めるためだ。
「そっか。そうかもしれないですね。戦力にするつもりがないから、職歴を聞かないんですね」
私が呆然と答える。
「でも、まあテストはやったんだし、単純に小林さんのテストの点が悪かったのもあるんだろう」
そう言って元上司はアハハと笑った。
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