市原隼人が1980年代の「でもしか」世代低体温教師をコミカルに体現する給食ドラマがひっそり放映中
アルマイトの食器に先割れスプーン、瓶牛乳にマーガリン。大人になってからほぼ目にしなくなったモノが次々と画面に登場する。懐かしさと同時に、独特のニオイが脳内に蘇る。午前11時を過ぎると校内に漂い始め、集中力を削がれる。
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給食、それは食いしん坊の子供にとってはこのうえない喜びであり、食が細い子や偏食がちの子にとっては地獄。私は前者だった。
そんな給食がテーマのドラマが密かに放送されている。「おいしい給食」である。主演は熱き男優・市原隼人。ここ最近、彼の無駄な筋肉と体温の高さをさりげなく活かせる作品が増えて嬉しい。大河「おんな城主 直虎」(2017)ではラーメン屋の店主っぽい腕組みの坊主役、「明日の君がもっと好き」(2018・テレ朝)ではベタな展開が毎回失笑のラブストーリーで、ぶっきらぼうな造園デザイナー役。真摯(しんし)になればなるほどなぜか可笑(おか)しい、そんな市原の魅力を存分に引き出すのが、この「おいしい給食」なのだ。
舞台は1984年。田園風景が長閑(のどか)な公立の中学校。市原は教員である。80年代というのがポイントだ。あの時代の教員は「教師にでもなるか、教師にしかなれない」と揶揄(やゆ)される「でもしか世代」が多い。子供の数が増え、教員採用枠が拡大し、試験さえ受かれば教職に就けるというイージーな時代だった。優秀で熱血な人材ではなく、どことなく負け組感が強かった気も。体罰教師もいれば無気力教師もいた。こんな大人になりたくないと思わせる、文字通り反面教師も多かった。
で、市原の役どころは、とにかく給食が好き。母親の作る料理がまずいため、給食が唯一の楽しみであり、給食のために学校に来ているといっても過言ではない。冷静沈着に見えるが、生徒や教育には無関心。頭の中は常に給食、という男だ。
主人公が心の中でメシに関する蘊蓄(うんちく)や情熱を語り倒すという意味ではよくあるグルメドラマなのだが、そもそも給食はグルメではない。成長に必要な必須栄養素とカロリーをクリアし、安価な食材で仕上げただけ。組み合わせが案外雑だったりもする。それでも市原は、給食に愉悦と快楽を見出す。
生徒のひとり・佐藤大志も給食マニアであることから物語は展開。彼は給食をより美味しく食べるために、創意工夫を凝らす。鯨の竜田揚げはタルタルソースをかけ、パンに挟んでドッグに。ミルメーク(牛乳に入れる甘い粉)はシェイカーとジャムを用いてツブツブシェイクに。ソフトめんの時は体操着に着替える。ミートソースのとびちりをいちいち気にせず、豪快に丼で混ぜて楽しむためだ。
佐藤の奇策を目の当たりにした市原は激しく嫉妬する。教員である手前、給食好きを隠す市原。一方、佐藤は天真爛漫かつ不敵に給食愛を追求。このふたりの心理戦がくだらないのに面白い。もしや、何もかもががんじがらめで息苦しい現代社会において、人の心の在りようを説いているのでは、と勘違いするかもしれないが、そんなたいした話ではない。要は、給食は感謝して食えっつうことだ。