小路明善(アサヒグループホールディングス株式会社代表取締役社長兼CEO)【佐藤優の頂上対決/我々はどう生き残るか】

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桃太郎集団になる

小路 そうした前例を自ら作る資質とともに重要なのは、異文化や異能を受け入れられることです。先ほど多様な経営陣という話をしましたが、そこからはいろいろな意見が出てきます。弊社は2016年から2017年にかけて欧州のビール会社を1兆2千億円で買収し、今年は豪州のビール会社をこれも1兆2千億円の巨費を投じて買収することを発表しました。今、社員の半数以上が外国籍です。だから日本とは違う文化を受け入れ、異能異文化を消化して自分の力にしていかなければならない。別の言い方をすると、同質的な金太郎飴集団ではなくて、桃太郎集団になるということです。

佐藤 それは面白いですね。イヌ、キジ、サルは、それぞれ異能の持ち主で、しかもイヌとサルは仲が悪いし、キジとサルも仲が悪い。それを桃太郎はきびだんご程度の報酬で鬼ヶ島まで連れていった。その点から見ると、これはリーダーシップの話でもありますね。

小路 育った文化、価値観が違う人たちを一つにまとめてあげられるのは、桃太郎型のリーダーでしょうね。サル、キジ、イヌのように違った能力を持つ人材を集めて、それをマネジメントしていく。それがないと、VUCAの時代は生き残れない。

佐藤 チームリーダーなど比較的小さな単位、軍隊で言えば下士官クラスに、桃太郎が何人もいると、その組織は強くなるでしょうね。

小路 その上で、企業には価値を生み出す人材が必要です。価値には二つあります。ファンクショナル・バリューとエモーショナル・バリューで、それぞれ物性・機能的価値と情緒的価値ですね。最高品質で安全安心なビールをお届けするというのは、ファンクショナル・バリューです。一方、モノは一緒だけれど、何かこっちの方がカッコいい、自分のライフスタイルに必要だな、と思うような共感、共鳴、感動などを生じさせるものがエモーショナル・バリューです。これからは常にエモーショナル・バリューを生み出していくことが必要になります。

佐藤 実際にはどんな商品になるんですか。

小路 例えばスーパードライブランドで、今年から小瓶で直飲みすることを提案しています。これは、小瓶という商品形態と、スーパードライより苦味や渋みを抑えてすっきりとした味わいにしたエクステンション(拡張)商品で、「スーパードライ・ザ・クール」と名付けました。ファンクショナル・バリューという点では従来のスーパードライと大きく変わっていない。でも小瓶でスポーツバーやパブで直飲みすると、グラスや缶で飲むのとは口当たりが違って、一種の異文化が体験できる。これがエモーショナル・バリューです。

佐藤 ロシアでも直飲みすることがあります。ロシア語では「乳首から飲む」って言いますね。

小路 はははは、そうですか。

佐藤 直飲みは人間の原点というか本能的な何かに触れて、まさにエモーショナルかもしれない。

小路 こうした提案ができる人が必要なんです。それともう一つ私が重視しているのは、非凡な努力ができる人です。努力ができるのは唯一人間だけです。私はただ能力の高い低いでは人を採用しません。非凡な努力ができるかどうかを見る。私の頭には、成果は「能力×努力+外的要因」という図式があります。非凡な努力があれば成果は何倍にも膨らむと考えています。

佐藤 その掛け算は非常に面白いです。私も教えてる学生たちに、勉強は「合理的計画×集中力×学習時間」だと言っています。集中力と学習時間が努力ですね。

小路 さらに言えば、非凡な努力をすることが自分の能力を引き上げることもある。

佐藤 そもそも会社には、社員の能力を引き上げてくれるところがありますからね。

小路 その通りです。

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