楽天「石井GM」が異例の編成 監督はクビ、18名の戦力外通告や独自の補強戦略に賛否両論
2018年9月に楽天のゼネラルマネージャー(以下GM)に就任した石井一久。そのオフの目立った動きは西武からFAとなっていた浅村栄斗を獲得したくらいだったが、今年はここまで非常に活発な補強を見せている。改めてここまでの石井GMが率いる楽天の編成を振り返ってみたい。
まず石井GMになって多くなったのがトレードだ。昨年のオフから今年のシーズン中にかけて1件の金銭トレード、4件の交換トレードを成立させ、橋本到、福井優也、熊原健人、下水流昂、和田恋の5人を獲得している。過去5年間での楽天のトレード件数が合計でも3件だったことを考えると、いかに多くのトレードを実行しているかがよく分かるだろう。
トレードで獲得した5人が主力として活躍することはなかったが、FAで獲得した浅村、新外国人のブラッシュとブセニッツが大きな戦力となり、チームは昨年の最下位から3位へ浮上することとなった。この点では石井GMの手腕は評価されても良いのではないだろうか。しかし、シーズン終盤から徐々にその動きに対して否定的な意見が聞こえてくるようになってくる。
まず、大きな波紋を呼んだのが平石洋介監督の退任だ。昨シーズンの途中から監督代行として指揮を執り、今季は十分な戦力ではないながらもチームを3位に押し上げている。さらに、平石は楽天球団が新規参入した年のドラフトで初めて獲得した選手の一人で、球団初の生え抜きコーチ、監督でもある。まさにチームを支え続けてきた人材だ。その平石が成績不振ではないにも関わらず、わずか1年で退任したことに対して多くのファンは衝撃を受けた。また、その退任発表の記者会見が駐車場の非常階段で行われたこともまた議論を呼び、元楽天スカウトの上岡良一氏が地元のテレビ番組でその扱いに対して涙ながらに石井GMを批判したことも話題となった。結局平石はチームの二軍統括のオファーを受けたがこれを断り、来季からはソフトバンクの打撃コーチに就任することになった。
次に衝撃を与えたのが大量の戦力外通告だ。このオフ、楽天が戦力外を通告したのは育成選手として再契約する選手と現役引退を含めて18人にものぼる。その中にはチームリーダーの嶋基宏(ヤクルトへ移籍)、中継ぎとしてチームを支えた福山博之(育成再契約)なども含まれていたが、中でも大きな議論を呼んだのが高校卒2年目の西巻賢二だ。西巻はルーキーイヤーの昨年、いきなり一軍で25試合に出場して19安打を放っており、今季も一軍での起用は少なかったものの、二軍ではチームトップの106試合に出場している期待の若手の一人である。そんな西巻に対してチームは育成契約を打診したのだ。結局西巻もこのオファーを受けず、ロッテのテストを受けて支配下選手としての契約を勝ち取っている。
また、ドラフト、FAでの補強でも石井GMは独自の路線を貫く。ドラフトでは地元東北出身の目玉だった佐々木朗希を1位で指名したが、ドラフト前には「悩むが、指名しないと東北のファンに怒られちゃう」と佐々木獲得にあまり乗り気ではない発言をし、その佐々木を抽選で外すと社会人内野手の小深田大翔を指名したのだ。さらに、FAでもロッテから内野手の鈴木大地を獲得している。チームの内野手は銀次、浅村栄斗、茂木栄五郎、ウィーラーのレギュラー陣に山崎剛、渡辺佳明、内田靖人、村林一輝と外野手登録の和田恋も控えている。ここに鈴木が入ることによって、さらに盤石なものになるかもしれないが、小深田の入る余地は確実に少なくなる。小深田は来年で25歳であり、すぐに使わないと選手としての旬を逃す可能性は高い。それを考えると小深田を1位指名した時点で、鈴木の獲得を見送っても良かったのではないだろうか。また島内宏明や辰己涼介、田中和基、小郷裕哉といったアスリートタイプの外野手が多くいるにも関わらず、ソフトバンクからFAとなった福田秀平にも大型契約のオファーを提示している。結果として、福田はロッテと契約したが、この動きもあまり納得できるものではなかった。
現有戦力を容赦なく整理し、トレードとFAで選手を集め、ドラフトでも即戦力を重視する。このような大胆な血の入れ替えは、中日、阪神時代の星野仙一のやり方に通じるものがある。だが、星野はその一方で裏方や選手の家族へ、さらにはマスコミに対して労いを怠らない“人たらし”の面が強かったことも事実である。石井GMが成功するかどうかは、そのような政治的手腕を発揮できるかにかかっているのかもしれない。