「串カツ田中」のサブスク“田中で飲みpass”が好調のワケ 忘れてはならないホットペッパーの教訓
定期券型の”落とし穴”
なぜ定期券型は駄目なのか。川上教授は記事で「高くて買えないものが、安く気軽に契約できる」のがサブスクリプションの魅力だとする。トヨタの「KINTO」を活用すれば何百万円もする新車でも、月4万円や6万円で自家用車にできる、という具合だ。
ところが「1日一杯野郎ラーメン生活」の場合、1回食べるだけなら最高値でも880円なのに、月額は8600円。トヨタの「KINTO」は月額のほうが車の価格より安かったが、こちらは逆に月額のほうが高い。もちろん11回目の来店で“元が取れる”わけだが、よほどのラーメン好きでなければ、お得感はないはずだ。
この定期券型のサブスク、提供先は飲食業界が多いのは言うまでもない。車と違い、1品で何百万円もする食べ物や飲み物など存在しないからだ。ならば飲食業界のサブスクは全て不評かと言えば、そうでもないらしい。冒頭でご紹介したように、串カツ田中はサブスクを導入すると、月の来店客数を1・84倍にしたという。
まずは串カツ田中について説明しておこう。「串カツ」や「牛すじ土手」、「肉吸い」に「かすうどん」といった大阪の居酒屋メニューを中心に事業を展開している。
創業は2008年。東京都世田谷の住宅街に1号店がオープンした。業績は順調に伸び、14年には大阪府の岸和田市に“逆上陸”。16年に東証マザーズに上場し、今年6月に串カツ田中ホールディングスが東証1部に市場変更を行った。
串カツ田中が導入したサブスクは「田中で飲みpass」というサービスだ。500円を払ってパスを購入すると、400円以下のドリンクが1か月間、何杯飲んでも199円になる(いずれも税抜)。同社の場合、プレミアム焼酎など一部のドリンクを除き、ビールやハイボール、日本酒、ワイン、サワー各種と、大半は400円以下だ。
正真正銘の定期券型になるわけだが、これが好評だという。例えば大絶賛の記事を掲載したのはロケットニュース24。7月12日に「【絶対買う】串カツ田中の『飲みPass定期券』が意味分からんくらいお得な件! これは実質的な“いつでもハッピーアワー” である」を公開している。
「田中で飲みpass」の誕生経緯や反響を取材したという、フードサービス・ジャーナリストの千葉哲幸氏に話を聞いた。
「この『飲みpass』は串カツ田中が『favy』という会社に依頼して誕生しました。『favy』は自社でサブスクリプションモデルの飲食店を経営しながら、飲食業の集客や顧客管理を支援するなど、『食』に特化したマーケティング・コンサルティングを行っています。『飲みpass』の誕生経緯を取材していくと、興味深いことに、店舗の禁煙化が原点の1つだったことが分かりました」
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