Facebookが「メディアに記事使用料を払う」と表明した思惑

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大統領選で同じ轍は

 くだんの言葉は、FBがアメリカで試験的に始めた配信サービス「フェイスブックニュース」に向けられたものだった。

 アプリのなかにニュース専門欄を設け、提携する新聞やテレビ局、出版社など、約200社が提供する記事を無料で読めるようにするという。ただし、これまでのGAFAと違い、メディアに記事の使用料を支払うというのである。その額は全国紙などに年数百万ドル(数億円)、地方紙などに年数十万ドル(数千万円)。

 それにしても、強欲なGAFAの親玉の一人が、なにゆえ唐突に殊勝な発言をしたのか。

「16年の大統領選以降、ザッカーバーグ氏は逆風に苦しめられてきました。選挙期間中は、フェイクのニュースや広告を放置したとして激しい批判にさらされた。また、ユーザーの個人情報が第三者の手に渡り、選挙にからむニセ情報が発信されたケンブリッジ・アナリティカ事件も、大きなスキャンダルに発展しました」

 と説くのは、ITジャーナリストの井上トシユキ氏。平氏が継いで言う。

「最大8700万人分の利用者データがクイズアプリによって収集され、政治コンサルティング会社のケンブリッジ・アナリティカに渡った事件は、対立候補者の中傷運動につながり、アメリカ大統領選にも多大な影響を与えました。この件でザッカーバーグ氏も2日間公聴会に呼ばれ、10時間にわたって詰問されました。また、ロシアから発信されたプロパガンダの疑いのある広告3千件を掲載して、問題になりました。こうした不祥事が重なったことで、反トランプ陣営からのFBへの風当たりは非常に強くなっています」

 鳴り物入りで始めようとした仮想通貨リブラも躓いた矢先。来年の大統領選で同じ轍を踏むわけにはいかぬ、という思いは、当然あるだろう。平氏が続ける。

「メディアに使用料を支払うのは、内外の世論に対する融和策の面もあるでしょう。当分メディアにお金を払って、ジャーナリズムを支援するポーズを見せるほうが、長期的にはプラスになるとザッカーバーグは考えているのだと思います」

 思惑はどうであれ、FBがニュースの著作権を尊重する姿勢を見せたのは、歓迎すべきことだが、懸念材料もあるという。米オンライン・メディア「バズフィード」日本版の創刊編集長だった古田大輔氏は、

「FBがパブリッシャーに対価を支払うのは、よろこばしいことですが、課題が二つあると思う」

 と言って、続ける。

「一つは、取材等の経費に見合っていて、持続可能なものかという問題。FBはこれまでもパブリッシャー向けのサービスを仕かけてきましたが、いつも蓋を開けると、パブリッシャー側に期待されたほどの見返りがなかった。FBはどこまで前例に学んでいるのでしょうか。もう一つは、ニュースの質が担保されているのかという問題。使用料を支払う媒体を選ぶのはFBで、選ばれたなかには党派性が強く、信頼性や客観性に欠けるニュースが多いと批判されているブライトバートニュースが含まれている。そこには政治的な配慮が感じられます」

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