世界進出のキーワードは「中2」(古市憲寿)

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 ポケットモンスター。言わずと知れた日本発の人気ゲームである。原点は1996年に発売された携帯用ゲームだ。アニメやカードゲームとしても大成功し、最近では「ポケモンGO」のヒットが記憶に新しい。

 その人気は世界規模だ。歌手のエド・シーランもポケモン好きを公言する一人。友達のいなかった小学校時代、ポケモンばかりをして過ごしていたらしい。

 ガラパゴスと言われる日本だが、ポケモンを筆頭にゲームやアニメなどコンテンツの分野では世界進出に成功してきた。マリオ、ソニック、ナルトは今でも大人気だ。

 一方で、日本には世界で通用するソフトウェア企業が一社もない。せいぜい韓国資本のLINEくらいで、すっかりGAFAの後塵を拝している。ある世界的ソフトウェア企業で働く友人は、日本製のソフトウェアに対して「ガラパゴスというが、日本独自の進化をしてきたというよりも、ただ単に出来が悪いだけ」と酷評していた。

「ものづくりの国」と言われた時代は家電の輸出こそ盛んだったが、世界シェアでは韓国や中国企業に抜かれて久しい。

 先の友人によれば、電機メーカーの凋落はソフトウェアの弱さにも原因があるという。要は日本製品は使いにくいということだ。ハードウェアが重要な自動車分野では今でも日本が勝っているが、自動運転が全盛の時代になれば形勢が逆転してしまうかも知れない。

 そんな中でも、ゲームやアニメ、マンガは順調に世界進出を果たしているように見える。そこには一体、どんな秘密があるのか。

 株式会社ポケモンの社長である石原恒和さんと対談した時に、その話題になった。出てきたキーワードは「中2」。ターゲットを中2以下に設定すると、世界に通用する可能性が上がるのではないかというのだ。

 確かにゲームやアニメも元々は子ども向け。その制約が図らずもグローバル化に寄与したというのはあり得る話である。

 実際、世界で通用するにはわかりやすさが非常に重要だ。日本製品はその点をないがしろにしている。

 たとえば、親の持っている「らくらくスマートフォン」を触って驚いたことがある。「らくらく」とは名ばかりで操作が難しいのだ。どう考えてもiPhoneのほうが使いやすい。実際、今では親もiPhoneを楽々と使いこなしている。

 考えてみれば当たり前の話で、iPhoneは人種や文化を越えて、世界中で愛用されている。そりゃ、日本国内における「世代」くらい、易々と越えられる壁なのだろう。

 しかし一概に「わかりやすさ」と言っても難しい。そこで「中2」だ。サービスでもゲームでも文学でも、ユーザーが中学生であってもわかるか、という視点を持つことは大切だと思う。ビジネス書のタイトル風にいえば「世界で売れたければ中学生向けに作りなさい」だろうか。

 ちなみに今回のエッセイは、説明もなくGAFAという単語を使ったり、明らかに中学生の読者が読みやすい内容ではなかった。ごめんね。

古市憲寿(ふるいち・のりとし)
1985(昭和60)年東京都生まれ。社会学者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員。日本学術振興会「育志賞」受賞。若者の生態を的確に描出し、クールに擁護した『絶望の国の幸福な若者たち』で注目される。著書に『だから日本はズレている』『保育園義務教育化』など。

週刊新潮 2019年11月28日号掲載

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