GSOMIA維持も、米国は「韓国は今後も中国に接近」と予測 もう収まらない怒り

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ジレンマの韓国保守

 保守は困惑しています。「5倍」を呑もう、と言えば自分たちの地歩が崩れてしまう。かといって「5倍」反対に加われば、米韓同盟を失う可能性が増します。

 朝鮮日報がWPに載った、アーミテージ・チャ論文を報じました。趙儀俊(チョ・ウィジュン)ワシントン特派員の書いた「66年もなじんできた韓米同盟の苦境」(11月25日、韓国語版)です。

 保守の朝鮮日報にとって「文在寅政権が米国に付けこまれる隙を作った」と分析するこの論文は、極めて引用し甲斐があるはずです。ところが趙儀俊特派員はその視点ではなく、トランプ政権の強引な要求を批判する論文として報じたのです。

・アーミテージ・チャ論文はトランプ大統領が(韓米)防衛費交渉の決裂を口実に在韓米軍を撤収するかもしれないと憂慮した。

 このくだりを含め、論文全体を「トランプ政権への憂慮を表明した」と読むのは無理があります。「韓国の失策を非難した」と読む方が自然なのですが……。

――なぜ、朝鮮日報は「憂慮」論文と報じたのでしょうか。

鈴置: 韓国人の反米感情を少しでも抑えるのが目的と思います。「トランプ政権は強欲だが、米国には韓国に配慮してくれる良心派もいる」と訴えることで、国民が「出て行きたいのなら、米軍は出て行け」と叫び出すのを防ぐつもりでしょう。

空自だけがB52を護衛、韓国空軍の姿なし

――アーミテージ氏やチャ氏は韓国保守の困惑が分かっているのでしょうか?

鈴置: 2人とも専門家ですから、反米運動を激化させると分かったうえで強硬な姿勢を打ち出したと思います。

 日米のアジア専門家の間では、しばしば「韓国保守のふがいなさ」が話題になります。対北朝鮮では日米とスクラムを組むものの、中国に関してはからきし弱い。『米韓同盟消滅』を読んだ米国の専門家から「韓国の保守は信用できるのか」と聞かれたこともあります。

 そんな経験からすると、この共同論文は韓国の左派ではなく、保守に対し「しっかりしろ。一緒に中国と戦う覚悟を見せよ」と通告したと思えるのです。

 韓国がGSOMIAで決断を迫られた最後の日、11月22日にグアムから飛来した米国の爆撃機、B52が日本海を飛行しました。一部の空域では、航空自衛隊のF15が編隊を組みました。

 B52が朝鮮半島付近まで北上する際は、日韓の戦闘機が空域別にエスコートするのが普通でした。しかし、今回は韓国の戦闘機は出動しませんでした。

 これを報じた朝鮮日報の「GSOMIA最後の日、B52は日本の航空自衛隊の護衛を受け東海を飛行」(11月25日、韓国語版)は「韓米日の軍事協力体制が崩れても、米日協力には支障がないことを北朝鮮・中国・ロシアに示した」と解説しました。

 確かに、その狙いもあるでしょう。でも、アーミテージ・チャ論文を読むと「日米の軍事協力に支障がない」ことを一番見せつけたかった相手は、韓国ではないかと思うのです。

鈴置高史(すずおき・たかぶみ)
韓国観察者。1954年(昭和29年)愛知県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。日本経済新聞社でソウル、香港特派員、経済解説部長などを歴任。95〜96年にハーバード大学国際問題研究所で研究員、2006年にイースト・ウエスト・センター(ハワイ)でジェファーソン・プログラム・フェローを務める。18年3月に退社。著書に『米韓同盟消滅』(新潮新書)、近未来小説『朝鮮半島201Z年』(日本経済新聞出版社)など。2002年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。

週刊新潮WEB取材班編集

2019年11月26日掲載

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